りょうすけ

チャドルと生きるのりょうすけのレビュー・感想・評価

チャドルと生きる(2000年製作の映画)
3.5
「チャドルと生きる」

「人生タクシー」のジャファル・パナヒ監督が第57回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品。イスラム教国家であるイランでの女性の生き方について描いた作品で、イランでは上映禁止となっている。

本作は分娩室のシーンから始まる。幸せムードな光景かと思いきや、産まれた児が女児であることを知るや否や「超音波では男だった。役立たずの嫁と言われて離縁されてしまう」という衝撃的な発言。

そこから無BGMかつ長回しで(厳密には違うが)描かれるのは、誰を主人公にするわけでもない複数の女性が遭遇する不条理。

彼女達に関係するのは「前科持ち」であること。彼女達が何の罪で収監されたのかは分からない。だからこそ彼女達がイスラム教社会で受けている処遇がより強調される。

本作の監督であるジャファール・パナヒと言えば、上映が禁止される内容の映画を撮る監督として有名であるが、彼の作家人生におけるその流れが出来たのは本作からの様だ。

おそらくはイスラム教国家ではない国での上映及び賞賛を狙っていて、自国をターゲットにする気は更々ないのだろう。彼の使命は祖国及びイスラム教の現状を世界に伝え、議論を呼ぶことなのではないだろうか。

しかし本作で描かれたことを全て鵜呑みにすることはできないし、国家だけの問題ではなく、イスラム教の問題でもあるので、本作で描かれているイスラム教国家における女性問題を無闇に批判することはできない。

これがキリスト教社会や日本の様な国での物語であれば、「女性蔑視」の映画という印象を受けるだろう。しかし、欧米諸国から見たイスラム教の女性蔑視的風習は必ずしもイスラム教国家において女性蔑視という訳ではないことも忘れてはならない。

パナヒ監督は改革派の監督なので、彼の眼鏡を通すとイスラム教が悪い様に映ってしまう可能性がある。彼を通して我々が感じたことを全て正しい、イスラム教の教えは悪だと思うのではなく、議論の一助にすることが最善なのではないかと思う。
りょうすけ

りょうすけ