ゆいこ

この広い空のどこかにのゆいこのレビュー・感想・評価

この広い空のどこかに(1954年製作の映画)
4.3
家族の一員としての自分の在り方に悩むのは、きっと嫁いだ先に限った話ではないはず。
そういう意味で、どこまでも普遍的で誰しもに心当たりのあるような日常を丹念に描いた作品だと感じた。
働き者の長男は、鈍い所があるようで心遣いが行き届いていて、息子にしろ夫にしろ、羨ましいくらい出来た男性に思えた。
次男は、青くさい部分もあるけれど、人や物事を信じる気持ちが眩しいくらいに素直で真っ直ぐな好青年。
怪我を負い目に屈折した気持ちを抱える長女泰子も、再会したばかりの学友が困った時には迷いなく助けようとする、真っ当な優しさを持っている。
そんな善良な子ども達に囲まれる義理の母しげもまた、穏やかで愛情深く人が良い。
ところが善人ばかり集まっていても、少しの言葉の足りなさや掛け違いで、うまく行かないのが人間関係の難しい所。
それが少しずつ解きほぐされていく様子が、胸に心地良く染み渡っていくようだった。
象徴的なのは、屋上でのボール投げのシーン。
自分の幸せに気が付き、それを大切にする事ができれば、妬みや嫉みとは無縁に赤の他人の幸せをも願う事が出来るもの。
さぞあの日の空は爽やかな晴天だったんだろうと思うと、映し出されたモノクロが惜しまれるような気さえした。
終盤にかけては、一家団欒で楽しげに食卓を囲む時と、若夫婦二人だけで寛ぐ時、そのどちらにも満ち足りた穏やかな空気が漂っていて、温かな幸せと充足を感じた。
ゆいこ

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