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ヴェルクマイスター・ハーモニーのsonozyのレビュー・感想・評価

5.0
長回しの巨匠タル・ベーラ監督作。
主人公ヤーノシュは、天文学が趣味の郵便配達員。彼が居酒屋で、おっさん3人を太陽・地球・月に見立て解説を始めるユニークなオープニング。
ヤーノシュが身の回りの世話をしている老音楽家エステルは隠居状態に見えるが、本作のタイトル"ヴェルクマイスター音律"(1オクターブを12の半音で等分した有名な古典調律法)を批判している。

この村に"世界一巨大なクジラ(の剥製?)"と"プリンス"と呼ばれる謎の男がウリの移動サーカス団がやってくると、そのトレーラーが停められた広場に中高年の男たちが多数たむろし、不穏な空気が流れ始める。

エステルの元妻テュンテ(ハンナ・シグラ)もなかなかの曲者で、警察署長と恋仲にあり、秩序を回復する浄化運動を起こすとやらで、その代表にエステルを仕立て、結局、別な形で村を支配しようとしているようにも見える。

純朴で気の弱そうなヤーノシュは、郵便配達より、人からの頼まれ事で忙しく(笑)、靴屋ラヨシュの家に間借りしているようだが、生活苦への不満マックスの村人たちに比べ、巨大クジラを見て無邪気に感動したり、重苦しいこの村で唯一、夢を持っているのかも?

"プリンス"なる扇動者により暴徒化し病院の患者たちを襲った男たちがピタリと止めるきっかけとなるあの老人の姿。
ある意味、一番冷静にこの村で起こる事態を把握できていたものの何も出来ないヤーノシュのラストの姿と、寄り添うエステルのやり取りの哀しみ。

本作も素晴らしい映像・カメラワークの力。
ヤーノシュの表情と一人歩く姿、全てを見通しているような?クジラの瞳のこのジャケ写も印象深いです。
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