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みんな元気の一人旅のレビュー・感想・評価

みんな元気(1990年製作の映画)
5.0
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作。

シチリアで暮らす老人が、イタリア各地にいる5人の子どもたちに会いに行く姿を描いたロードムービー。

『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』『鑑定士と顔のない依頼人』のジュゼッペ・トルナトーレ監督初期の名作で、2009年にロバート・デ・ニーロ主演で製作された『みんな元気』のオリジナルに当たる作品。現時点で未DVD化なので中古VHSを¥3,000で入手。少々手痛い出費だが、その価値は充分にある。

VHSには【大ヒット〈ニュー・シネマ・パラダイス〉につづく感動作!】とキャッチコピーがあるが、そうではない。本作は、シチリアで暮らすオペラ好きの老人マッテオが、全然シチリアに里帰りしてくれない5人の子どもたちに会うため列車に乗ってイタリア各地を一人で旅する姿を、幻想的な映像と主人公の回想を交えて描いた逸品。老人の旅を通じて離ればなれになった家族の強い絆を再確認する…という感動譚ではない。むしろ、シビアな視点で“家族”を描いており、年月の経過とともに団結していたはずの家族が精神的に散逸していくさまが描かれる。

5人の子どもがみんな順風満帆な人生を歩んでいると信じるマッテオだが、実際はそうではない。それぞれが夫婦・親子関係に悩み、仕事に悩んでいる。だが、マッテオにその事実は知らされない。父親を心配させたくないという想いから、表面上の嘘の幸福を見せつける子どもたち。それを鵜呑みにして安心するマッテオだが、やがて子どもたちそれぞれの“嘘”を知ることになり愕然とする。

一口に家族と言っても、そのかたちは時間の経過とともに遷ろう。親と子どもで成り立っていた家族は、いずれ大人(親)と大人(子ども)の関係に変わっていく。大人同士の親子関係だから、そこには必然的に大人としての付き合い方が生じる。親に対する大人としての配慮が、逆に家族の関係をギクシャクさせてしまう。と同時に、子どもを子どものまま見なし続ける親の心情も、親と子どもの関係を窮屈にしてしまう。大人になり親離れしていく子どもたちと、大人になった子どもを昔の子どもの姿にいつまでも重ね合わせる親の性。マッテオの旅を通じて、家族の変容・親の不変・子の成熟を浮き彫りにする。

みんな元気…はいつまでも変わらぬ親の“願い”。お札を握った赤ちゃんのラストシーンがそれを端的に表現する。

主演はイタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニ。子どもに対する親の理想と現実のギャップに直面する主人公マッテオを、哀愁漂ういぶし銀の演技で魅せる。マッテオの息子の一人は『ニュー・シネマ・パラダイス』のトト役で知られるサルヴァトーレ・カシオ。音楽はもちろんエンニオ・モリコーネ。
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