櫻イミト

聖山の櫻イミトのレビュー・感想・評価

聖山(1926年製作の映画)
3.5
ナチス映画「意志の勝利」(1935)の監督として有名なレニ・リーフェンシュタールの女優時代初主演作。 監督脚本は彼女の師で山岳映画の第一人者アーノルド・ファンク。

アルプスの山麓。海を愛する美しいダンサー・ディオティマ(レニ・リーフェンシュタール)は山の男に恋心を抱く。二人は両想いになるが、もう一人ディオレマに惹かれる若い山の男が現れる。二人の男は共にアルプスに登ることになるが。。。

シナリオはいびつで青臭いが、捨て置けない映像が頻出するカルト的サイレント。

海と雪山が、逆光やタイムラプス撮影を用いて非常に美しく切り取られている。大自然に対して登場人物を極小サイズに置く構図も効果的で好み。

なのだが、そうした自然主義に対して、リーフェンシュタールをはじめ役者の演技がドイツ表現主義的で、全体的にチグハグな印象を受ける。

ただし、それが監督のねらいという見方も出来ないことはない。コンテンポラリーダンスを愛する芸術家女性と、山岳愛好者であるスポーツマンとの、違和感を表す実験的演出とも受け取れるのだ。だとすれば、恋愛成就の幻想シーン(個人的には本作最高のシーン)が、”自然”の氷で作った”芸術”的神殿で繰り広げられる映像に意味を上乗せすることが出来る。

それにしても、序盤の盲目的な自然信仰の台詞と、同年のドイツ表現主義映画「ファウスト」(1926)のラスト演出を想起させる”誠意”の文字には、何ともチグハグな印象がぬぐえない。そのいびつさを押し通す姿勢に、来たるファシズム国家を予感してまうのは何故か?

本作の6年後、リーフェンシュタールは傑作「青い光」(1932)で主演&監督デビューする。同作では本作の自然主義的表現がブラッシュアップされ、表現主義は払拭されている。撮影は本作と同じくハンス・シュネーベルガー。
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