ちろる

妻よ薔薇のやうにのちろるのレビュー・感想・評価

妻よ薔薇のやうに(1935年製作の映画)
4.0
これはちょっと中島みゆきの「悪女」の歌詞を思い出してしまう。
「亭主元気で留守がいい」
この言葉が当たり前のように言われるそのずっと前、日本の家庭にこれほどまでに「亭主」を大切に想う妻たちがいたとは・・・
山師になると田舎に行き、それから女を作り何十年も戻らなくなった父を待ち続ける娘と妻。
娘は快活で賢そうなビジネスガールとなり、ボーイフレンドを茶化したりできるほどのモダンガールとなっているが、父を待つ母はと言うと、暇さえあれば詩を詠み、主人不在の寂しさをなんとかやり過ごしている。
なんとも切ないけど、娘はそんな母を憐れみつつも、「自分はあんな風にならない」と強く誓う。
それでも、東京で父を見かけたのをきっかけに田舎の父を探しに行こうと決意する娘が、目にした光景・・・
そこから情勢が一気に変わるのが面白い。
お父さんの飄々とした態度は今の感覚では目ん玉飛び出るくらい驚いて、カルチャーショックだったけれど、この時代の作品のこの文化にこんなケチをつけるのは今更やめよう。
自分を持ちすぎてる本妻である母親はこの時代にしてはクリエイティブではあるがこの時代の妻としては前衛的すぎる。
自分よりも人と、犠牲の元に愛を与えられる二号さんは古い日本的な妻の美しさの典型のよう。

男から見ても弱音を吐かないで強気な女よりも、甘えて気立ての良い女の方が可愛いに決まっている。
裏でさめざめと泣いたって悲しい気持ちは相手に伝わるわけではない。
「お母さんの負けだわ。」
娘は2つの妻の顔をこんな風に見せられたらこの娘は賢い奥さんになれるに違いない。

ちなみに遠い昔の日本のお話なのでまるで違う国ような感覚で観てたのだけど、当時の歌舞伎座の鏡獅子!
時代変わってもこちらだけは全く変わらないのにはちょっと感動しました。
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