針

上海から来た女の針のレビュー・感想・評価

上海から来た女(1947年製作の映画)
3.8
オーソン・ウェルズ監督・主演のフィルム・ノワール映画。
船乗りのマイケル(オーソン・ウェルズ)はふとしたきっかけで知り合ったエルザ(リタ・ヘイワース)という美女に惹かれ、彼女の夫のバニスターの自家用ヨットで働くことになる。しかしそのクルーズに同乗していたグリズビーという男が謎の依頼を持ちかけてきて……。

自分はいわゆるフィルム・ノワールはあまり観たことないのですが、ファム・ファタール(運命の女)の魅力に惹かれて男があやうい道へと導かれていく筋立てがまさに典型的なそれという感じがしました。

個人的にはドラマの展開が若干分かりづらいのと、ミステリーとして見るとウームとなるところがちょっとあったのですが、あまり古びた感じのしない引き締まった感触のスリラーだとは思いました。編集のおかげか、殴ったり投げたりといったアクションシーンに今見てもちゃんと迫力があるのはさすがという感じでしょうか。

最初の30分がカリブ海の港をまわる海洋もの、次の30分が都会で進行するスリラー、残りの30分が……という感じで次々舞台が転換してくところがいい感じ。シーンもバシバシ切り替えてって間延びしないし。
そして終盤だけ、あまりにも急に魔術的……。ちょっと圧巻でした。これは作中に出てくる「サメ」の比喩の視覚的な表現でもあるのかなと思いつつ、単純に絵面のインパクトがすごい。
それと全部じゃないけど、オーソン・ウェルズはたいてい顔に陰が落ちていて、リタ・ヘイワースはそれとは対照的に真っ向から顔に光を当てられてるショットが多い。ふたりの顔の切り返しで会話を映してくときのコントラストとか印象的でした。こういう美しさを見ると白黒いいなと思いますね。
あとはこの作品の発する暗い人間観がまぁ好みだったなーと。そんな感じ。

○補足。『市民ケーン』の興行的な失敗によってそれ以降の映画は会社に編集権を取られてバンバンカットされてしまったというのはどこかで読んだことがあったのですが、この映画もそのひとつっぽいですね。話がちょっと辿りづらいのはそのせいかな……ナレーションがかなり説明的だなーという気もしたんだけど本当はそれを補うための措置だったのかも。
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