ちろる

オルフェのちろるのレビュー・感想・評価

オルフェ(1950年製作の映画)
3.9
奇妙なラジオの暗号。
死者が蘇る世界。
鏡の奥には僕の想像力をはるかに超える無限の言葉が広がっている気がした・・

ギリシャ神話「オルフェウス」を基に、ジャン コクトー監督がフランスのとある詩人を主人公にして描いた奇想天外な物語。
詩人として行き詰まっているオルフェが死の女王との出会いと摩訶不思議な展開によって、死の世界に陶酔していく
完璧な美しさを持つ死の王妃はオルフェに禁断の恋心を抱き、それがオルフェの貞淑な妻ユリディスとの奇妙な三角関係と化していくわけだけど、なんともこの主人公オルフェの不安定さが見ていて憎らしい。
愛しても、愛しても心が離れていく夫オルフェに為すすべもなく、不幸にも事故によりライバルの住む死の世界に取り込まれてしまうのだから哀れ極まりないユリディスにどうしても感情移入してしまう。

その一方で不思議なラジオの音と、無限のインスピレーションを与えてくれる死の世界で、いつのまにか詩人であることと死人であることがイコールになっていく様を実に幻想的な映像で見せてくれる世界感は素晴らしい。
そしてその映像は、時空の歪みの中にある世界を演出するために、映像の逆回し、スローモーション、早送り、と当時としてはなかなかの画期的なカメラワークを駆使した作品であり、この後の多くの作品にも影響を、与えたのだというのも見て取れる。
うーん素晴らしい。

この作品をハッピーエンドといって良いものなのか、、、ラストまでオルフェの性格が許せなかったので納得がいかないが、恐ろしい存在に見えた死の女王の切ない瞳は「千と千尋の神隠し」のハクのそれと同じように見えた。
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