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アンダーグラウンドの10000lyfhのレビュー・感想・評価

アンダーグラウンド(1995年製作の映画)
3.5
第二次大戦中から 1990年代の内戦まで 50年以上にわたるセルビア国家史に、パルチザン幹部/武器商人/大統領側近と、政治的に要領よく生き抜いた架空の人物の人生を、重ね合わせて描く。「旅芸人」「覇王別姫」と同様の手法だが、本作はスラップスティック色が強く、長い苦難の時代を全力で走り切ったと感じさせるパワーがある一方で、リアリティは薄く洗練みは無く、製作の 1990年代当時としても古めかしい印象だ(これらはそのまま本作の魅力であり欠点といえる)。実際の映像との合成が多用され、一般人にとってアクセスしやすい歴史映像資料集としての側面も持つ。

特に大戦中を描いた第1部では、「吾輩はカモ」(主人公の髭はグルーチョへのオマージュ?)やルビッチ「生きるべきか」にも通ずる、「戦争そのものは恐れず、笑い飛ばしながら生き延びよう」的な思いが溢れる。他にも、タランティーノを思わせるユーモアと暴力のブレンドや、8 1/2 ラストを思わせる、故人も含め主要登場人物全員集合の祝祭的なエンディングなど、多くの映画からの影響が読み取れる。

本作で最も印象的なのは、大戦中の第1部で隠れ場所としての機能を果たした後、戦後のユーゴスラヴィア時代の第2部では、主人公にまだ戦時中と騙され幽閉され続ける人々が運営する武器工場の地下世界(多くの映画/文学/哲学を想起させる既視感の強い世界観で、強制収容所の暗示ともとれる)。実際の時間の経過(20年)よりも 3/4 の時間(15年)しか経っていないと、被幽閉者たちに信じさせる時間操作は、アナログ手法で実行するには煩雑で、動機に説得力を欠くが、ぞっとする肌寒さを感じさせる設定だ。結婚式シーンでは、虚構世界での打ち上げ花火的な多幸感が充溢する中、各人物に去来する様々な思いが交錯する。同じく弟2部で、主人公の半生を描く映画の撮影シーンのドタバタぶりや、役者たちの、特に撃たれて倒れる時の、下手な演技は、メタ的な笑いを誘う。

タイトルは直接的には上述の地下世界のことだが、都市伝説的なヨーロッパ中に張り巡らされた地下道や、比喩的にレジスタンス運動も指しているだろう。

ソースミュージック/劇伴は、東欧の民俗色の強い、金管メインのアコースティックで、映画に完璧に合っている
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