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ハート・ロッカーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ハート・ロッカー(2008年製作の映画)
4.3
 戦争は続けると中毒になるという言葉、イラク戦争中の2004年、バグダッド郊外。アメリカ軍の危険物処理班は、路上に仕掛けられた「即席爆発装置(IED)」と呼ばれる爆弾の解体、爆破の作業を進めていた。遠隔ロボットを使用し、爆弾に接近した彼らだったが、砂利道の上で無情にも荷車が落ちる。マシュー・“マット”・トンプソン二等軍曹(ガイ・ピアース)は自らが防護服を被り、爆弾の25m手前で止まった遠隔ロボットを調整しにかかる。トンプソンの援護に回るのはJ・T・サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラティ)で、彼らは周囲に気をかけていた。その矢先、エルドリッジは20時の方向に携帯電話を手に取る男を目撃する。サンボーンに伝え、彼を確保しようとする2人だったが間に合わず、トンプソン二等軍曹は爆死する。トンプソンの死で失意にあったブラボー中隊だったがまだ38日間の任務を残しており、代わりにウィリアム・ジェームズ一等軍曹(ジェレミー・レナー)がやって来る。しかし、任務が開始されると、ジェームズは遠隔ロボットを活用するなど慎重を期して取るべき作業順序や指示を全て無視し、自ら爆弾に近づいて淡々と解除作業を完遂。任務のたび、一般市民かテロリストかも分からない見物人に囲まれた現場で張り詰めた緊張感とも格闘しているサンボーンとエルドリッジには、一層の戸惑いと混乱が生じる。

 イラク戦争戦時下のバグダッドで活躍する爆発物処理班の様子をドキュメンタリー・タッチで描いた今作は、バリー・アクロイドのステディカムの動きが極めて鮮明に映る。前作『K-19』のアレクセイ・ボストリコフ艦長(ハリソン・フォード)同様に、独断専行型の自由主義者であるジェームズ一等軍曹の行動が、サンボーンとエルドリッジには当初はまったく理解出来ない。誤爆に間違えて殺してしまおうとサンボーンが握ったスイッチは遂に押されることはないが、彼らの気持ちが同化した経緯をビグローは丁寧に描写していく。夕陽が落ちる頃、砂漠の砂をすっかり吸い込んだジェームズ軍曹は咳き込み、エルドリッジにジュースをねだるが、あろうことか最初に彼はサンボーンに飲ませる。その日の夜、ウィスキーをしこたま飲んだ彼らは互いに殴り合い、友情が芽生えるのだった。2人の部下に心を許したジェームズは、本国に愛する妻コニー(エヴァンジェリン・リリー)と幼い息子がいることを明かす。

 中盤以降、ジェームズはDVD売りの少年ベッカムの幻を見る。『ブルースチール』や『ハートブルー』同様に、狂気を見たジェームズの常軌を逸した行動に映画は徐々に焦点を絞って行く。夜の街を疾走するジェームズの焦燥、愛する妻に一言も声を発せない電話、837個の爆弾を処理した男がたった2分で解除すべき4人の子を持つイスラム人の救えなかった命。息子に話しかけた「大切なものは一つだけ」という言葉、爆音でかかるブッシュ政権を痛烈に批判したMinistryの『Fear (Is Big Business)』や『Palestina』、そして『Khyber Pass』の錯乱したリズムだけがジェームズを再び狂気へと駆り立てる。戦争の悲惨さを的確に描写した今作で、キャスリン・ビグローは女性監督で初めてアカデミー賞監督賞の頂点に立った。
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