母や妹との思い出の美しさは皮肉でやるせないコントラストである。
水の撮り方はやはり一級品であり、彼の美的センスは既に確立されていて、後の飛躍が想像に難くない。溝口的な構図の美しさを感じることが多く、何か通底したものを思わせる。
タルコフスキーにしては筋がしっかりしていて、少年の心理的、情動的な部分へのアプローチがはっきり見られる。
ただ単に戦争の残酷さを映像でもって見せるのではなく、少年の心の機微によって反戦を呈示する。
過去の経験というのはやはりその後の人間性の表出として影響するのである。トラウマをフックにする作品は往々にしてあるわけだが、それともまた異なる過去の幻影。失われたものは返ってこない。
長編一作目にしてこうした卓越した戦争映画を作ってしまうのは末恐ろしい。脱帽である。