このレビューはネタバレを含みます
ラストシーンなど目につくシーンはある。全体的にモノトーンの鬱屈した画面も話の内容にはよくマッチする。
しかし今一歩、もう少し上手く料理できなかったものかな。みんな明日も知れぬ身で、微かな希望に舞い上がってしまうのは分かる。しかしその「明日も知れぬ身」というのの深刻みが染みてこなかった。
ナチ野郎の恐ろしさを終盤まであまり描いていないのがまずいのかも知れない。時計がズレてる監視員、気分で見逃してくれちゃう管理者、怖い人と言われたそばから心臓弱いキャラがバレる上官、便所に駆け込むおっさん。
なんか、間抜けなのよ。前半で残酷なシーンは監督の息子が射殺されるところと、便所からジェイコブを救った友人が殴られるところくらい。
生活の切羽詰まり具合も台詞ではよく語られるが、画面からの伝わり方は弱い。ゲットーのユダヤ人だから察しろということかも知れないが、生憎そこまで詳しくないのだ。
ということで、敵の恐ろしさも味方の絶望感も響かない状態で本作を観ると、主人公の周りの人間がみんな主人公を困らせるようなことばかりするのでフラストレーションが貯まる。主人公は「嘘つき」というか「嘘つかされ」。挙げ句の果てには拷問されて死んで終わりだ。
極限の状態で、微かな希望が人々を絶望から救う。いい骨組みだと思うのだが、極限の状態が伝わって来ない。なんなら絶望して自殺した人の描写はあるが、主人公の嘘で明確に救われた人も出てこない。肉付け方が歪だったのか、私には合わない作品だった。