ヒデ

二百三高地のヒデのレビュー・感想・評価

二百三高地(1980年製作の映画)
4.2
「幾千の人命を命令一つで殺して将たる者に、名将などちゅう者は一人もおらん!」

日露戦争の旅順要塞での死闘を、司令官・乃木希典や大本営の幹部たち、戦場の兵士たちなど、さまざまな視点から描いた群像劇。一言で言えば、『シン・ゴジラ』のゴジラをロシアに変えたバージョン。

コテンラジオで日露戦争の回が面白かったので観てみたら、こちらもめちゃくちゃ面白かった。時代考証や作中のロシア語もかなり正確なので、ゴールデンカムイのファンは補足の情報として観ても良さそう。

とにかく乃木希典(仲代達矢)と児玉源太郎(丹波哲郎)の存在感が素晴らしく、もうこの旧友二人のための映画だと言ってもいい。児玉が乃木の窮地を助けに行くのがアツいし、そこで乃木がもう限界であることを悟るのも良かった。全体通して乃木希典役の仲代達矢さんの演技は圧巻で、パニックになった部下を静かに見つめる際の目の迫力や、ラストの慟哭シーンには魂がこもっていた。感情入りすぎててもう本人にしか見えないレベル。

度重なる無謀な総攻撃を大本営に命じられ、夥しい数の戦死者を出し、挙句の果てに息子二人まで戦地で亡くしてしまった乃木希典。彼が自責の念に囚われ、精神を病んでいく様子が見事に再現されている。

乃木と児玉以外も皆キャラが立っていて、婚約者を金沢に残してきたロシア文学好きの小学校教師や、子供2人を内地の施設に残してきた気弱な兵士、仲間思いの元ヤクザの兵士など、皆それぞれにドラマがあった。

しかし映像で観ると、旅順要塞攻略がいかに無茶な作戦だったのかがわかる。銃窓に大量のマシンガンが構えるコンクリの要塞に、ひたすら走って突撃を繰り返すことの無謀さ。もはや撃たれに行ってるようなもん。遮蔽物も弾薬もないのに走って突っ込まされるの地獄すぎるし、実際日本軍はここで大半の兵士を失ってしまうことに。状況的に1秒でも早く要塞を落とさなきゃ行けない状況だったとはいえ、これを命じた乃木希典は確かに辛かっただろうなと…。

でもこの映画の良いところとして、日本とロシアを「どちらが悪」とか決めつけずに極めてフェアにしている部分が挙げられる。やってることは侵略だし、実際悪ではあるんだけど、現地にいる兵士たちはあくまで一人の人間。ロシア側の兵士が葛藤しているような下りもあるし、24時間の停戦協定中では兵士同士でウォッカとタバコをにこやかに交換するようなシーンもあって、ロシア側にも同情の余地がちゃんとあるのがすごいと思った。「お前らは弾薬がないんだろ!?俺たちは撃たん!盃杯!」と言ってウォッカを日本軍側に渡すシーンとかはなかなかエモい。

3時間あるのでウルトラ長いんだけど、ずっと見応えのある作品で素晴らしかった。大敵に対していかに戦うかを上層部が話し合うくだりは前述の『シン・ゴジラ』感があって面白いし、ロシアを愛してるのに中隊長として戦わなければならない小賀さんの存在を入れるとかも皮肉で面白い。陸軍と海軍のバチバチのあたりも日本って感じですごく良かった。

古い作品だけどおそらく相当な額のお金をかけて作られているので、一度は観た方が良いと思う。CGが一切ないので、実際に旅順とか大連に行った感じも味わえる。


以下、セリフメモ。


「二人の心臓を狙え。苦しまずに死なせてやることが、ロシア軍人の節度だ」

「一体我が軍は、この戦争に勝てるんか?」

「閣下も死んでいただきます。それでも…それでも…今立たなければ国軍は二度と立つ機はございません」

「明治国家は今、国民の好むと好まざるとに関わらず、残酷で巨大な事業を遂行しなければならなくなっていた。大国の餌食として横たわる羊から、獲物に噛み付く狼に変貌することである」

「僕は多分召集を受けて戦場に行くことになると思います。だけど、心の底からロシアを愛し、ロシア人を愛している日本人が、少なくともここに一人確実にいるということだけは、どうか信じてください」

「(息子が)戦場に出て、戦死するのは光栄です。むしろ喜ばしいことじゃが、親としてはただ、死に様が醜くなかったことだけを祈る」

「副官。家内に電報。≪カツスケ、名誉ノ戦死。満足スル。喜ベ≫」

「私…どんなことをしても…帰ってきて欲しいんです…小賀さんに…」

「旅順要塞は…お化け屋敷だ…誰も生きて帰れん…」

「俺がお前の指を撃つ。指がなくなっても子供は抱ける。お前、内地へ帰りたいんだろう?」

「誰か代わってくれる者がおれば、わしほどの木石になれる者はおるまい」

「軍の攻撃目標を二百三高地に転換する」

「松本さん、決戦なんじゃ。意地は捨ててくださらんか」

「貴様!どうして捕虜を殺そうとしたんだ!」
「部下の敵討ちです。ロシア人はすべて私の敵であります。悔いは毛頭ありません」

「もっとハッキリ言うてくれんか。貴公、大山さんの遣いでわしの首を切りに来たんじゃろう。わしもそれを待っておった」

「わしは攻撃隊を指揮して二百三高地に突っ込む。そのための二個大隊も用意してある。あとは頼む」
「乃木!バカなことを考えるもんじゃない。わしはただお主を手伝いたい思うて…」
「いや違う!わしがそう頼んでおるんじゃ。ぜひそうさせてくれ。わしは貴公が頼む通り、三度総攻撃を実施してきた。一度くらいわしの本意を叶えてくれてもええじゃろうが」

「乃木、黙ってわしの投げる石になってくれ」
「児玉ァ!わしはァ!木石じゃないぞ!!」
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