櫻イミト

黙示録の四騎士の櫻イミトのレビュー・感想・評価

黙示録の四騎士(1921年製作の映画)
3.5
「國民の創生」(1915)「イントレランス」(1916)と並び称されたサイレント期の超大作。アメリカ初の反戦映画。ハリウッド初の二枚目スター、ルドルフ・ヴァレンティノの出世作。公開時はチャップリンの「キッド」(1921)を抑え断トツの年間トップ、それまでの興行記録を塗りかえた。

19世紀初頭の、あるスペイン人姉妹。姉はフランス人と、妹はドイツ人と結婚し、それぞれ夫の故郷で家庭を築いた。姉の息子フリオ(ヴァレンチノ)はパリでプレイボーイとして名を馳せ遊んで暮らしていた。やがて第一次世界大戦が始まり独仏の戦いが始まった。姉妹の家族は敵同士となり。。。

ルドルフ・ヴァレンティノの映画は初めて。男らしさの中に甘さのある二枚目オーラを放っていて、人気が出たのもうなずける。

映画は確かに超大作で、フランスの町が爆撃で破壊される様子は凄い迫力。実際に街を丸ごと作ってそれを破壊したというのだから当時の制作規模の凄さが感じられる。終盤の何千と言う十字架の墓のロングショットは、フランスのアベル・ガンス監督「戦争と平和」(1919)に劣らない強烈なイメージを残した。

ただシナリオの軸が不安定で、ヴァレンティノの生き様にスポットを当てすぎたために、本来の軸になるべき”敵同士になった親類家族の悲劇”が見えづらくなったように思う。戦争直後の観客にとってはそのような悲劇は言うまでもない話だったのかもしれないが、だとすると「黙示録の四騎士」の題名が宙に浮くように思える。

「TOMORROW 明日」(1988)のように”悩みも愛情も戦争で消し飛んでしまう”との主張と解釈できなくもないが、その方向への打ち出しも弱いと感ずる。本作が普遍的名作として残らなかった理由は、戦後の観客に共鳴した時代精神が、時代の波ですっかり変り果てた事にあるのかもしれない。仕方ないことなのか警鐘として捉えるかはもう少し考察が必要だ。

「黙示録の四騎士」とは、アメリカでは常識的な慣用句で、聖書の黙示録に登場する”破滅をもたらす者”を指す※。このところ聖書を勉強し始めて、いかに欧米の映画に引用が多いか、いかに諸所の作品を理解できていなかったかを思い知るばかりだ。

※「黙示録の四騎士」がもたらすもの
「ホワイトライダー」侵略戦争
「レッドライダー」内戦、内乱
「ブラックライダー」飢饉
「ペイルライダー」死と荒廃
四人のライダーは地上にいる人間の四分の一を殺害する力を持つ
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