佐藤克巳

黒い潮の佐藤克巳のレビュー・感想・評価

黒い潮(1954年製作の映画)
5.0
再生日活が放った最初の問題作。名優にして名監督山村聰が、左右思想に偏らない視点で下山事件の真実に迫ろうとした社会派映画の傑作中の傑作。未だに謎多き事件だが、新聞社間の販売合戦が真実の追求より優先した帰来があり、扇動的内容に乏しいが真実追求を重視する社会部長滝沢修率いる山村チームの責任問題となる。山村の下で働く信欣三、河野秋武等の丹念な取材模様や夜勤の連続する真夏の新聞記者の日常は真に迫る。そうした中三鷹事件が起こり社内の空気は一変する。また、山村の個人的体験が取材の公正にこだわる態度に結びつけドラマの厚みを増し、博多左遷送別会での記者間の論争はジャーナリズム界に一石を投じる鋭い内容だった。しかし今日のメディア報道は、この時の風潮より酷く、真実を報道しない自由を行使している様に見える。
佐藤克巳

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