ジミーT

宇宙へのフロンティアのジミーTのレビュー・感想・評価

宇宙へのフロンティア(1988年製作の映画)
5.0
この映画はアポロ計画のフィルムを再構成したドキュメンタリーなのですが、「アポロ計画」を追ったものではありません。地球⇔月の航行で「宇宙飛行士たちが何を見て何を感じたのか」だけに絞りに絞った映画なんです。計画の裏話や技術者の努力など、そういう「余計なもの」は一切描かれない。あ、これは語弊がありますね。技術者の努力が余計であるわけはないのですが、あくまで「映画的には」という意味です。

例えばスピルバーグの「激突」はタンクローリーと乗用車の攻防だけ。本当にそれだけを描いたからこその傑作でした。それ以外の要素は本当に最低限のことしか描かれていません。
この映画も同じで、開発のエピソード等は一切ない。打ち上げから航行、月面着陸、そして帰還までの映像以外は何もない。NASAの管制室の様子も必要最小限しか描かれない。月面初着陸のアポロ11号さえ偉業として捉えられておらず、第一、どの部分が11号のフィルムなのかすらわかりません。
その結果、史上最も遠くまで行った生身の人間である宇宙飛行士たちが「何を見て何を感じたのか」を通して「我々人類は何を見たのか」まで感じさせる大傑作に仕上がっているんです。
ちなみに「激突」が、89分、この映画が90分。

アポロ計画の有人飛行は1968年のアポロ7号から1972年のアポロ17号まででした。
映画自体はアポロ宇宙船が打ち上げられてから帰還・着水するまでを追っているのですが、その様子を7号から17号までのフィルムをコラージュして構成しています。どの部分が何号なのか、にわかにはわからないのですが、あえてわからせようともしていません。
そもそもこんな宇宙船がどんなロケットで打ち上げられるのか、という説明も冒頭のケネディ大統領の演説フィルムに語らせている。映画的に「余計な説明」はしていないんです。
唯一、最後の地球帰還の部分だけは、計画最後のアポロ17号のフィルムであることがわかるように構成されていて、その結果、「これが最後である」「人類はここまで来たのだ」という感動を引き起こしてくれます。「余計なもの」は一切描かずに。

追伸1
アポロ計画はもう半世紀も前のことで、1968年のアポロ7号から1972年のアポロ17号までの有人ミッションが何だったのか、若い方の理解の一助としてその「段取り」だけ記しておきます。あ、私の記憶だけですので、正確を期したい方は必ずや裏をとってください。チェック・ダブルチェック(「クライマーズ・ハイ」)。

アポロ7号 1968年10月
初の3人乗りアポロ司令・機械船で地球周回飛行。

アポロ8号 1968年12月
アポロ司令・機械船で月周回飛行。人類初めて月へ行く。

アポロ9号 1969年3月
地球周回軌道上で司令・機械・着陸船の動作確認飛行。(ある意味一番地味で目立たず、ちょっとかわいそう。)

アポロ10号 1969年5月
月周回軌道でアポロ9号と同じテスト。(クソ真面目派の7号〜9号に比べると陽気でアメリカンな「おしゃべり宇宙船」。司令船と着陸船の名前からしてスヌーピーとチャーリー・ブラウン。)

アポロ11号 1969年7月
泣く子もだまる月面初着陸。人類にとって偉大な飛躍。ケネディは約束を果たした。
この時の熱狂はすさまじく、読売新聞もドでかい広告で「徹夜で見ようアポロ11」。

アポロ12号〜17号
月面着陸。月面車はアポロ15号以降、「ガリレオ実験」はアポロ15号だったかなあ。

追伸2
「2001年宇宙の旅」や「ダーク・スター」「サイレント・ランニング」との関連について話すと収拾がつかなくなるのでやめておきます。

追伸3
スコアは5.0。この映画が5.0でなくて、どんな映画が5.0なんだ?

追伸4
最近、火星探査機の「生涯」を追った「おやすみオポチュニティ」というドキュメンタリー映画があることを知り、翻然とこの映画を思いだしてレビューを残しました。
「おやすみオポチュニティ」も必ずや観たいです。
ジミーT

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