ジミーT

飛べ!フェニックスのジミーTのネタバレレビュー・内容・結末

飛べ!フェニックス(1965年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画は2004年にリメイクされていますが、リメイクにしてリメイクではありませんでした。オリジナル版と較べてどちらが良いかという以前に、作品の根本思想に関わることなので書き留めておきます。
長いです。長くなくては語れない真実もあるのです。

原作もこのオリジナル版もリメイク版も、「輸送機が砂漠に不時着する。乗客と操縦士たちがその双発双胴の輸送機から単発単胴の飛行機を作り、砂漠を脱出する。乗客として偶然乗り合わせた飛行機の設計士という男がリーダーシップをとる。」という話です。そして飛行機の設計士というその男が、本物の飛行機ではなく、ラジコンの模型飛行機の設計士だったというのがこの作品のミソなんです。

クライマックス直前にこの事実を知ったガンコ者の老練機長は言います。
「オモチャの飛行機屋か!本物の飛行機じゃないのか!そんな奴の飛行機が飛ぶわけがない!」
これに対して設計士は敢然と熱弁します(注1)。
「オモチャの飛行機は床の上を転がるだけだ(注2)。だけど模型飛行機は本物の飛行機と同じ力学の原理で空を飛ぶんだよ。いや、操縦士が乗っていないだけに本物の飛行機以上の安定性が要求されるんだ。本物の飛行機を作る前には模型の飛行機で実験するだろう!1853年、イギリス人のヘンソンとストリングフェローはゴム動力の模型飛行機を600m飛ばすことに成功した。ライト兄弟より50年も前だ。人間が空を飛ぶずっと前から模型飛行機は空を飛んでいたんだ。」
これこそがこの話の根本思想なんです。
この男には本物の飛行機など眼中になく、よりよく飛ぶ模型飛行機を設計することが天職であり、命を懸けているんです。そこには模型飛行機の設計士としてのプライドや誇りがあります。

結果はこの男が考えた単発単胴の急造飛行機に全員乗り、老練機長が操縦して砂漠からの脱出に成功する。そういう展開であり、この大筋はリメイク版も変わりません。

しかしリメイク版はこの後に余計なことをやらかしてくれた。登場人物のその後を「アメリカン・グラフィティ方式」で紹介して終わるんです。それもまあいいとしましょう。
問題は模型飛行機の設計士のその後が、このように紹介されるんです。

「NASAに就職した。」

じゃ、この男の熱弁は何だったんだ。模型飛行機設計士としての誇りもプライドも、ひいてはあんたが命を張っていた模型飛行機そのものも、NASAに就職するための踏み台だったのかい!
というようになってしまうんです。根本思想が崩れ、「模型飛行機の技術者が指揮して砂漠からの脱出に成功する」という卓抜な発想を台無しにしてしまうんです。
全く他の業界ならまだいい。同じ航空というNASAというのが引っかかるんですね。NASAは宇宙で飛行機は大気圏ですが、この際、似たようなもんです。

原作もこのオリジナル版も砂漠を脱出し、めでたしめでたしで終わります。それで良かったんです。余計なことをするもんです。
あえてどうしても「その後」を紹介したいのなら、なぜ次のようにできなかったのでしょうか?

「その後、彼が設計した模型飛行機は、ラジコン飛行機世界大会の曲技飛行部門で優勝した。」

こうこなかったら感動も共感もできませんよ。

さて、このオリジナル版ですが、ムサ苦しい男どもの意地の張り合いと共同作業は素晴らしく、「十二人の怒れる男」(57年)と双璧をなす暑苦しい映画の大傑作です。上述の「根本思想」を体現したハーディ・クリューガーも素晴らしい。

注1
1970年頃、テレビで放映されたこの映画をカセットテープで録音して(録画ではありませんよ)、繰り返し聞いたので、この長台詞は頭に入っているつもりですが、コマカなところで違っていたらすみません。

注2
これは吹き替え版による台詞です。
DVDによる字幕版だとここは「オモチャの飛行機は子供が投げてとばすやつだ。」となっています。しかしこうなるとこの設計士の認識不足が見えてしまいますよ。
たとえ子供が投げて飛ばすものでも、空を飛ぶ以上、本物の飛行機と同じ力学の原理で空を飛ぶのですから。

追伸
リメイク版の模型飛行機設計士ですが、実は根本思想がどうのという以前に、性格設定に問題があります。砂漠の武装集団だか盗賊団だかの1人を捕虜にするんですが、衰弱しているその男を平然と射殺するんです。
オリジナル版にはこんなシーンはなく、原作にもない。だからこれはリメイク版独自のシーンなんです。
これはもう大問題。いくら極限状況で相手は盗賊だとはいえ、殺人者ですよ。よくNASAに就職できたもんだ。この事実を隠して就活していたとしたら更に問題ですよ。

参考資料

「飛べ!フェニックス」
エルンスト・トレバー・著
渡辺栄一郎・訳
1977年
酣燈社
ジミーT

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