真田ピロシキ

式日-SHIKI-JITSU-の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

式日-SHIKI-JITSU-(2000年製作の映画)
4.5
もう20年以上前にこの映画は見てて、その時はなかなか面白く感じた記憶がある。昨年末に完全に惰性でシン・エヴァンゲリオンを見て予想通り面白く思えなくて、25年もかけてこれかよと庵野秀明に失望してちょうどこれを思い出して今見たらどう思うだろうかと、多分エヴァを引きずり続ける庵野に呆れるんだろうなあと予想しながら鑑賞。

庵野を投影したと思われる岩井俊二演じるアニメーション製作に疲弊した"カントク"が毎日「明日は私の誕生日」と言って儀式に興じる"彼女"(藤谷文子)と出会い行動を共にする。彼女の発言は支離滅裂でカントクもポエミーに表現行為を自嘲したりするばかりで話の要点はなかなか掴めない。その代わり工場や鉄道、アーケード街など何度も映し出される無機物が萌える程に存在感を示していて、またこの世界にカントクと彼女以外の人影が皆無なためにまるで死後の世界を見せられているかのような錯覚を覚えて、彼女が飛び降りる寸前で何度もこっちに留まる描写もあり漂うのは穏やかだが濃厚な死の香り。赤と青が鮮烈に映えて、いちいち印象的なショットも多い画作りは明らかにアート系の映画であるが、下手なMV系監督の映画などと違って朧気ながらも話を手繰り寄せられて分からなくても退屈しないのは、流石にエヴァンゲリオンという物語を売ってきた庵野。最初からエンターテインメント性はうっちゃってるそうだが、それでも通じる人には通じさせられるのが映像作家としての実力なのだろう。

清々しいまでにカントクと彼女だけの閉じた世界を展開されてたが、中盤以降は徐々に人間が出てきてそこから死の匂いがする穏やかな世界は揺さぶられて危うい生の世界へと変貌する。この他者が恐怖になるところはエヴァと変わらずといった感じで苦笑。しかし本作は自分自身すら偽って逃げてたものと対峙させて克服する事に成功していて、しかもその話は前半の雲をつかむような話とは違って随分分かりやすく展開する。あれ?旧エヴァでやれなかった事が既にできてるんじゃ?シンエヴァを待つまでもなくコミュニケーション不全の親との対峙が果たせてて、その長回しカットは見応えあり。クズ親父ゲンドウとのアレなんかいらなかったのだ。何故にあんなに時間をかけて既にやった事を試みようとしたのか。どうしてもエヴァでやらないといけなかったのか。これを見ると一番エヴァに囚われてたのは庵野自身としか思えない。ともあれ、そうして果たされる再生の末に定まる本当の誕生日と不確かに生きる未来には感動があり、そして流れるこの映画にハマりすぎてるCoccoのRaining。私はこの歌がマイベストかもしれないレベルで好きなのでスコアは1億点!当然ここでは5点満点です。と、まあそれはあまりに主観的にすぎるのでちょこっと自重してこのくらい。でも本当に良い映画と思ってますし、庵野作品ではベスト。よく考えたら庵野で苦手なのはエヴァだけな気さえする。一気に庵野株が持ち返したのでしばらく重点的に庵野作品を追ってみようかと思いました。