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セラフィーヌの庭のodyssのレビュー・感想・評価

セラフィーヌの庭(2008年製作の映画)
4.5
【芸術家と発見者の関係を見事にとらえた傑作】

美術というのは不思議な分野で、有名な画家や教師に習ったとか芸大を出たとかいうのでなくともひょっこりと人知れない場所で異様な才能が生まれる場合があります。映画でも、『非現実の王国で』なんかはそういう実在の画家を取り上げたドキュメンタリーとして興味深かったのですが、この『セラフィーヌの庭』もドキュメンタリーではないもののやはり実在の画家を描いていて実に面白かった。

この映画で重要なのは、下っ端の暮らしをしている冴えない中年女が実はたいへんな画才の主であるという事実には違いないのですが、同時に、その才能を発見するドイツ人の画商を同じくらいの綿密さで映し出しているところです。

美術――に限りませんけど――で大事なのは、ある絵をどう評価するかということです。たくさんの人たちが見ても下手くそな、或いは凡庸な絵として思われないのに、実はそれが過去に例がない独自性を持つすばらしい作品なのだということを発見して、そのことを多数の人間に分からせる人物がいなければ芸術は成り立たない。芸術は、それを作る人間が必要があると同時に、その価値を発見し世間の人々を説得して価値を理解させる人間を必要とします。

この映画では(というより事実がそうだったわけですけど)、それがドイツ人なのにフランスにやってきた画商であるのが面白い。生まれたり育ったりした環境とは異なる場所に生きる人間にとっては、もともとそこに暮らしている人間が当たり前と思っている事柄が当たり前ではないし、当地の人間が眉をひそめるような何かに存在価値を認めたりすることは、ありがちなのではないでしょうか。それは例えばラフカディオ・ハーンが日本にやってきて日本文化の独自性を高く評価したり、写楽が外国人によって評価されることで初めて広重や歌麿と並ぶ浮世絵画家と認められるような現象にも似ています。

また、この画商は画商と言うより好きで絵にかかわっている人物であるのが興味深いところ。芸術を見定めるにはプロとしての学識や広い見識も大事ですが、シロウトとして新しい芸術に驚きを覚えるいわばウブな部分をいつも保持していることも大切だからです。いわば永遠の異邦人としての気質が画商にあることを、この映画はきっちり捉えているように思います。

才能を持ちながら平凡な下働きで暮らす中年女と、ドイツからやってきて彼女の画才を見抜く画商の組み合わせ。この映画はそうした、画家と発見者との幸福な出会いと関係――といっても両大戦間の時代で恐慌もありなかなかたいへんだったのですが――を見事に捉えた傑作であると言えましょう。

パンフレットもこの映画のモデルになった人物などについて詳しく説明してあり、お買い得。
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