せーじ

マイマイ新子と千年の魔法のせーじのレビュー・感想・評価

マイマイ新子と千年の魔法(2009年製作の映画)
4.7
ということで、三本連続で取り上げたい作品の一本目はこちら。
以前にもレビューしたのですけど、本作のファンの方々とTwitter上で初公開日である11月21日に合わせて、夜の九時から疑似的に同時視聴会&実況中継をしたのです。それがとても楽しかったのと「やっぱりこの映画、すごいよなぁ!もっとちゃんと感想を書かなきゃ!」と思ったのとで再度書き直すことにしました。
以下、とても主観的なヨイショ…もとい、良かったところしか書かない感想ばかりになりますがご了承ください。

■超ハイクオリティな「麦の穂」に刮目せよ
この作品の何が凄いのか、なんでこんなに筆者がノリノリなのか、説明させて頂きますと、まず、アニメーションとしてそもそもとんでもなくハイクオリティなのですよね。監督による徹底した調査考証を元にした舞台立てが恐ろしく上手く行き届いていて、しかもアニメーションとしてとても美しくすべてのものが描かれているのです。本当に?と疑う人はぜひ、この作品の「麦の穂」の描写に注目してみてください。最初観た時自分もビックリしたのですけど、麦の穂そのものの描き込みが繊細で細かいのはもちろんのこと、風に揺れる様子がとてもリアルに見えたのです。今まで観た中で一番写実的でリアルなアニメーションだったなと思いました。もちろん、ほかの草花にもしっかりと考証が為されていますし、昭和30年の山口県防府市(と、平安時代の周防国)という明確な舞台立てが為されているので、建物や構造物の位置や作りはもちろんのこと、当時の文化や風俗、果ては土の色にまでリアルな表現が為されています。そういったことを知ったうえで見ると、絵柄そのものはシンプルで平凡に見えていても、そもそもの映像が安定感抜群で、ものすごくリッチで豊かであると思えるはずなのですよね。以上の力が的確に働いているので、アニメであるのにも関わらずむちゃくちゃリアルで没入感が高いですし、その様子にどこか「郷愁」を感じさせられてしまうのではないかなと思います。

■人とイマジネーションとの在り方について
次いで、素晴らしいと思うのはストーリーですね。内容は簡単に言うと「イマジネーションによって時代を超えることが出来たガールミーツガール(アンドミーツガール)」というお話なのですが、この作品が凄まじいのはそこだけで終わらせないところなのです。「昔懐かしい昭和生まれの子供たちが泥んこになって遊んでいる姿を見せて『昔はよかったよねぇ』…じゃねぇよ?」と描いているのですよね。そうではなく「大人になったって、今の世の中であっても、子供心を捨てなくてもいいんだよ?」とこの作品は描いているのです。もちろん、劇中でも様々な事情によって「イマジネーション溢れる子供の世界」が大きく揺さぶられるのですけど、たとえ大人であっても「子供心」に救われる瞬間があるのではないだろうか。むしろそういうものを捨ててはいけないのではないだろうか…と、描こうとしているのだと思うのです。それが作品から伝わった時、自分はものすごく感動しました。なかなかここまで踏み込んで描こうとしている作品って、無いですからね。
片渕監督のアニメーション作品は、どれも「イマジネーションと人との在り方」について描き続けていると言ってもいいと思います。本作のひとつ前の作品である『アリーテ姫』は「イマジネーションに"気がつく"作品」だと言えますし、本作のひとつ後の作品である『この世界の片隅に』は、「奪われたイマジネーションを"取り戻す"作品」だと言えるのですよね。本作は「大人になってもイマジネーションを持ち続けようと"誓い合う"作品」なのではないかなと自分は思っています。
それと、やはり素晴らしいのは音楽ですよね。コトリンゴさんの主題歌はもちろんなのですが、劇伴も本当に素晴らしいと思います。スキャットの様な女声コーラスが独特で耳に残るのではないかなと思いますが、その面白さ以外でも、ナイーブで繊細なピアノソロだったりが耳に残りました。
やっぱりすげぇ…

※※

ということで、とてもリアルでありながら、とても繊細なところもあり、もちろん笑える部分やほっこりする部分もあるという、全体的にはとても観やすいアニメーション作品なのではないかなと思います。『この世界の片隅に』とも繋がっていると感じられる部分もありますし、エンディングの描写は某超有名なアニメーション映画作品との「接続」が為されていたりもしていて(オマージュ的な描写なのですけれども)さまざまなことを考えさせられる強度を持つ、見ごたえがある作品なのではないかなと思います。
ご覧になっていない方はぜひぜひ。
特に「麦の穂」の描写に注目して観て頂きたいなと思います。
せーじ

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