Omizu

雨のしのび逢いのOmizuのレビュー・感想・評価

雨のしのび逢い(1960年製作の映画)
5.0
【第13回カンヌ映画祭 女優賞】
マルグリット・デュラスの小説『モデラート・カンタービレ』を原作とし、彼女自身が脚本もてがけている作品。監督は舞台出身、『三文オペラ』などのピーター・ブルック。主演のジャンヌ・モローがカンヌ映画祭女優賞を受賞した。

余白のある非常に素晴らしい作品だった。原題は息子の弾くピアノの指示である「モデラート・カンタービレ」であり、文学と音楽の要素が大いに取り込まれた一作になっている。

冷え切った仲の工場長夫婦の妻、そして彼の元で働く労働者の男がある殺人事件をきっかけに不倫関係に陥っていく様を流麗に描いている。

ストーリーだけだとなんてことないのだが、演出が素晴らしい。ピアノ、波、森などを叙情的に描き、二人の複雑な感情を上手く表現している。まるでマルグリット・デュラスの原作を読んでいるような詩的な作品。

ジャンヌ・モローはもとよりジャン=ポール・ベルモンドも微細な表情演技が素晴らしい。満たされない愛、そして実るはずのない恋を表現する二人は名演だった。

本筋とは関係ないはずの息子のピアノが物語を繋いでいく。音楽的に魅せる演出も非常にいい。原題が表すように、まるで流れるように愛し合う二人が切なくも痛々しい。報われない愛にどのように落とし前をつけるのか、余白を大いに残しループ状になっているラストがいい。

個人的にはジャンヌ・モロー演じる奥さんの終盤の晩餐シーンが印象に残っている。彼女自身、街の噂になっていることを分かっていて、それを取り繕うことも出来ない。「客になんて言えば?」「気が変になったと」このやりとりが胸を引き裂く。

ジャンヌ・モローの女優賞も納得の傑作だった。素晴らしい。
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