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略称・連続射殺魔のodyssのレビュー・感想・評価

略称・連続射殺魔(1975年製作の映画)
2.7
【ドキュメンタリーではなく芸術だが】

監督の足立正生自身がナレーションもやっています。タイトルから分かるように連続射殺魔・永山則夫(1969年逮捕、97年処刑)を描いた映画なのですが、彼の名は直接的には出てきません。

この映画をどう評価するかはかなり難しいと思います。監督は永山のドキュメンタリーを撮ろうとしたのではありません。かといってフィクションをまじえながらまとまりのよい連続射殺魔の物語をこしらえようとしたのでもない。

ではどういう作りかというと、永山の育った町や仕事をしながら暮らした町などを映像で丹念に追っていっているのです。ただ、映像はあくまでこの映画を作った時点でのものであり、永山が実際に暮らした時代にさかのぼるわけではありません。だから、永山がその場所で暮らしていた頃の何かは残ってはいるだろうけど、あくまで現在(この映画が作られた1969年)という時点で、過去を再構成する、いや、過去の残存物をかぎまわるようにして拾い集めていくような印象を残します。

といって、必ずしも場所を現時点で忠実に撮影したわけではなさそうです。北海道では、近くの線路を気動車が走るシーンが連続して撮られています。監督が鉄っちゃんだからなのかどうか、その辺がよく分からない。それとも永山が鉄だったのでしょうか。

時折ナレーションが入って永山の足跡が説明されるのですが、映像は必ずしも彼が起こした殺人事件に直接関係するところに限定されず、むしろ時代や場所の雰囲気をそれとなく再現しようとして、様々なオブジェを映し出し、それによって間接的に彼の感情や情念を明らかにしようとしているのかな――と思いました

要するにドキュメンタリーではなく芸術映画、少なくとも芸術を目指した映画、なのでしょう。映像にはそれなりにセンスが感じられますし、見ていて退屈はしません。しかし、永山則夫という実在の連続射殺魔を素材とした(或いは、単にきっかけ、と言うべきなのかも知れませんが)映画として成功しているかどうかは、微妙なところでしょう。
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