救済P

超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますかの救済Pのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

テレビアニメ版視聴済み。

テレビアニメ版とは全くの(というと言い過ぎだが体感ではそれくらい)別物。コロコロコミックで好きだった作品が続編をビッグコミックで連載しだしたみたいな。言い過ぎ。

シナリオからキャラクターの関係までテレビアニメ版とは大きく異なる。マクロスは既に宇宙に発艦しており、ミンメイは実力派の歌手・女優として大成している。一条は一介のミンメイファンでしかなく、軍務中に偶然お近づきになった彼女に翻弄される。2時間という尺の中で大迫力の戦争描写と輝を取り巻くミンメイと未沙との三角関係を描くために効果的な配役がなされている。

全体的に空気感はシリアスでシック。ブリタイとエキセドルに関してはもはや誰かわからないレベルでグロテスクなデザインに変更されている。街や母艦のデザインや機構はテレビアニメ版からは考えられないほど突き詰められ、マクロス艦内で繰り広げられる営みやマクロス、バルキリーの変形に至るまで、テレビアニメ版では抽象化、省略されていた設定が具体化され、画に説得力が生まれている。
説得力の高さには間違いなく画の強さも一役買っている。恐ろしいほどまでに描き込まれたマクロスやゼントラーディの戦艦はテレビアニメ版のコミカルな空気を払拭し、アニメ映画に相応しいシリアスな雰囲気を作り出すことに成功している。描きこみが緻密な分、テレビアニメ版のような高速に動き回る戦闘描写は少なくなってしまったが、一つ一つの打撃、砲撃に重厚感があり満足感は損なわれていない。マックスvsミリアの戦闘は必見。

テレビアニメ版では少なからずリン・ミンメイのアイドルとしてのキャラクター性が強調されていたが、本作はサブタイに『愛・おぼえていますか』と主題歌の曲名がそのまま起用されていることからもわかるように、ミンメイの歌手としての側面が重要視されている。相変わらずゼントラーディはキスに慄いているが、戦局を決定的なものとしたのはミンメイの歌であり、三角関係はミンメイが歌うことへの困難としてはたらいている。

戦闘描写、三角関係、戦場の歌を主軸に物語が進行するため、テレビアニメ版で幾度か挿入された「戦いと市民の平和」「軍務と政治」の間でひしめくトレードオフの関係によって生じる決断、それに伴う重責と苦悩といった描写はほとんどなくなっている。そのため、特に艦長の存在感はやや希薄となった。代わりに未沙とは自発的なキスの描写が追加されるなど、これまでイベントを多用することで深められていた三角関係が、一つのイベントを深堀していくことで濃く深められている。
一条は軽口を叩くことなく、真っ向からミンメイと未沙に向き合う。2時間の中で深められた三角関係の決着は、テレビアニメ版の軟派な彼からは考えられないほど潔い決断によってもたらされる。失恋と同時に本当の意味で歌を手にしたミンメイは激しい銃撃戦の中、敵の猛攻を恐れることなく歌で戦う。マクロスシリーズの流儀が真に確立した瞬間のように思われる。

いくつかシナリオに不満点もあげられる。
ミンメイと未沙との関係の深まり方がディストピアな環境に放置されアダムとイブ的に接近していく手法がとられており、新鮮さに欠ける。
プロトカルチャーの文明の下りは神話的で本作のコンセプトからいまいち外れており言い訳感がぬぐえない。
本作に限ったことではないが全体的にわざとらしく演技臭い。
時代精神かつ作品のテーマ的に仕方ないが男らしさ、女らしさの強要がうざい。
しかしこれら不満点がラストの戦闘に繋がっていると思うと全て必要だったことのように思われる。

個人的な話。
愛おぼの「もうひとりぼっちじゃない」のとこでボロ泣きした。マクロスシリーズをFしか観てなかったがFはめちゃくちゃ観ていたので「娘々スペシャルサービスメドレー(特盛り)」の終盤、『ライオン』とともにこのフレーズが流れていたことを思い出した。20数年経ってもリン・ミンメイの歌った『愛・おぼえていますか』が受け継がれ、同じように平和を願って戦いの中で歌われていると思うとそれだけのことが嬉しくて仕方なかった。

あと俺の未沙が可愛すぎる。なんだその髪は未沙。やっぱりテレビアニメ版の髪は重かったのか未沙。すぐ死のうとするところは相変わらずだな未沙。でもそんなところも好きだぞ未沙。
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