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刺青一代のnetfilmsのレビュー・感想・評価

刺青一代(1965年製作の映画)
4.3
 昭和1年、人のいない河原におびき出された戸塚組の親分・岩松は異変に気付き、ピストルで立ち向かおうとするが、「白狐の鉄」の異名をとる大和田組のヤクザの村上鉄太郎(高橋英樹)にドスで殺された。鉄の腕には刺青が見えた。鉄はヤクザから足を洗うことを条件に、大和田組組長の命令で岩松を刺したのだった。その足で鉄は、仏具屋に修業にいっている弟健次(花ノ本寿)を訪ねたが、美術に夢中になる彼は残念ながら留守で、鉄は仏具屋のおかみさんに少しばかりのお金を預けるのだった。そそくさと出掛けた鉄は、大和田組の政吉(小林亘)に騙されたと知ると、やおら銃口をつきつけられあわやという時、草むらから兄の姿を見つけた健次が駆け付け、政吉の挙銃を奪うとすぐに引き金を引き、政吉を射ち殺してしまった。鉄はまだ堅気の弟に傷がつくのを恐れ、自首しようとする健次をともなって、満州への逃亡を計画する。密航行きかうある港町で知り合った男山野(小松方正)の紹介で、翌朝出航する亜細亜丸で密航の手続きをしようと目論むのだが、兄弟が来た時に船の姿はなかった。山野らにだまされて金をまきあげられた鉄と健次は、途方に暮れ路頭を彷徨ううちに、列車の中で木下みどり(和泉雅子)に出会う。彼女はその土地の港湾業者である木下組組長勇造(山内明)の義妹で、勇造の妻でみどりの姉の雅代(伊藤弘子)がいた。

 誰よりも弟を愛するヤクザな兄の苦悩は『俺たちの血が許さない』と同工異曲の様相を呈すが、満州への逃亡を夢見る兄弟の行方は最初から暗礁に乗り上げる。戸塚組の息のかかったところにはいられない兄は何とか木下組で港湾工事の仕事を得て、徐々に街の人々に慣れ親しんで行く。だがこの街で弟の健次は勇造の妻の雅代に恋をしてしまう。彼は雅代の裸を想像し描き、しまいには彼女を観音に見立てた像を彫り上げる。幼い頃に両親を失った弟は、たった1人の兄に支えられてここまで生きて来た。だが雅代の姿に亡き母親の姿を重ねてしまうのだ。一方の兄の鉄太郎も、雅代の妹のみどりに惚れられている。男気溢れる現場リーダーで、鉄の盟友となる常吉(高品格)や飄々とした清公(野呂圭介)、みどりとの政略結婚を目指す鉄の恋敵となる江崎修(小高雄二)など清順組のいつものメンバーに狡猾な山野千吉(小松方正)の怪演も加わり、一気呵成に盛り上げる。出て来る人物全てが歪なリビドーを爆発させるが、クライマックスの無惨な死に兄は突如暴れ狂うのだ。花札と襖、雨傘と水車、赤い靴と滾る血、そして横移動と交差することのない襖を奥へ奥へと開けて行く縦移動のカタルシス。突如登場した書き割り舞台、カラフルに染まる襖の美。様式美と前衛的な抽象美術とが奇跡のようなバランスで成立した傑作活劇である。
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