いけ

愛の奇跡/ア・チャイルド・イズ・ウェイティングのいけのレビュー・感想・評価

4.5
これは傑作。
まずジュディ・ガーランドと主人公の男の子(ルーベン)が出会う場面の演出、基本的な切り返しと名前を呼ぶ行為で二人の間に確かな絆が生まれたことを確信できる。その後も二人は部屋を退出させられることで、観客は二人が共鳴していることを即座に理解する。
障害児がそのまま大人になった人たちの施設を訪れたあと、施設の人びとのバストショットに続いて、あたかもその未来が避けられないものであるが如く、子供たちがジュディ・ガーランドの音楽の授業を受けているバストショットへと繋げる。終始ルーベンと目線を合わせていたジュディ・ガーランドは、ルーベンと目線を合わせようとしない。不安になったルーベンはピアノにあたるが、ジュディ・ガーランドはその行為を甘やかすことなく、淡々と指導する。
その後の演劇のシーンにおいて、ルーベンはセリフが出てこないが、舞台脇にいるジュディ・ガーランドに目を向けることはない。目線が合わないこと。その否定形の身振りが、各々が進む道程を照らしだす。
そして演劇のシーンでもまた、観客と演者、障害児と大人はバストショットで繋げられる。その境界を融解せんとするカメラの前での「存在論的平等性」(カヴェル)。顔を撮ることの個別性と全体性。まさに『フェイシズ』を控え、どうにもならない現実と、それでもなお生き続ける人々の悲哀に関心を向けたカサヴェテスが、ハリウッド的なキャスティングと物語の力、あるいはスタンリー・クレイマーの力を借りて産み出した、「狭間の」小品を愛せずにはいられない。
いけ

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