UFA万歳！MGMのような豪華絢爛な舞踏会！床鏡の上でいつまでも続くかのような煌びやかなダンスシーン、スピードを感じさせる回転と重なる映像の美しさ！音楽からしてハリウッドとは重みと深みが違う。ドイツ映画の格調高い藝術に酔いしれた。

イギリスの一流デザイナーであるジェニファーは、夫と死別してから、女手一つで二人の娘を育て、娘たちのことだけを思い人生を捧げてきた。その母ジェニファーに一目惚れしプロポーズする毅然たる紳士コーベット卿。
コーベット卿が訪ねてきた時、娘たちは、応接間に掛かる騎兵将校であった亡き父の肖像画をコーベット卿に紹介し、母が亡き父をいかに素敵な人物だったと語っていたかを話す。娘たちが部屋から出て行った後、コーベット卿は「旦那さんと幸せだったんですね」と言うと、母ジェニファーは「いいえ。子供たちには私がそう話していたんです…」と淋しく微笑む。実際は、亡き夫はギャンブルで莫大な借金をしており、その借金を残したまま死んでしまい、彼女は幼い娘二人を抱え、懸命に働き借金の返済に苦労したのだ。真実をコーベット卿に話し、二人の愛情はさらに深まる。

長女のイレーネは16歳の誕生日を迎え、KindからFräuleinへ(子供から大人、すなわち少女から女性へ)。女学校の教師にもボーイフレンドにも家族にも祝福され、幸せ一杯だったが、コーベット卿の出現に複雑な気持ちとなる…。亡き父に深い愛情を持っていたイレーネは、母に亡き父の他に愛する男性ができたことが許せず、また彼が新しい父親になることも拒否する。さらに、自分の愛する母、自分だけの母が、ひとりの男性に寄り添い、自分から心が離れていってしまうのでは…と、淋しさと嫉妬を感じる。まさに思春期の不安定な娘心だ。妹のババは無邪気な少女でコーベット卿とも直ぐに打ち解け、新しい父親として彼を気に入る。

ここから物語はさらに展開していくわけだが、いやぁ、母親役のリル・ダゴファー…、素晴らしかった。サイレント期からのドイツを代表する大女優として名前は知っていたが、まさに貫禄ある偉大な女優だ。女としての妖艶さと美しさ、それに母親としての娘たちへの愛情の細やかさ。見事に演じきっている。
そして無邪気で生意気な妹役のゲラルディーネ・カット。この作品が彼女の映画デビュー作だったようだが、才能に満ち溢れていた。彼女が薔薇を持って歌う”Liebe”から始まる歌のあの艶っぽい少し低音の深みのある声…。15歳とは思えない。
久しぶりに良い作品に出会えた。

※キネマ旬報外国映画ベストテン第7位(1939年度)