ひでやん

こうのとり、たちずさんでのひでやんのレビュー・感想・評価

こうのとり、たちずさんで(1991年製作の映画)
4.3
切り離されても心を繋ぐ静寂の集い。

テレビ番組の撮影で北ギリシャの国境地帯にある寒村を訪れたアレクサンドロスは、入国許可を待つ難民の中に10数年前に失踪したと思われていた大物政治家らしき男を発見。彼は政治家の元夫人を村に招いて、2人の対面をカメラに収めようとする。

アルバニア、北マケドニア共和国、ブルガリア、トルコと、4つの国境が接するギリシャの難民問題は勉強不足でピンとこない。島国で生まれ育った自分は、遠出のドライブで県境を超えると嬉しくなったりするが国境はそうはいかない。一歩踏み出せば異国か、死か。ラインの手前で片足を上げたまま静止する姿が印象的で、その姿がタイトルになっているようだ。

娯楽性を重視したおしゃべりな映画とは違い、とても静かな作品だ。その男は別の人生を生きている失踪した政治家か、瓜二つの別人か。目撃者となるアレクサンドロスを通して、その結末と彼の愛を見守った。

カット割りや台詞を抑えて、長回しで見つめ続ける静寂の歩み。冬枯れの木立と彩度の低い色彩が幻想的で美しく、物寂しいその風景が先行きの見えない難民の心と重なる。自由を求めたはずの異国の地はあらゆる壁を作り、それがいくつもの国境となって心を狂わす。

大海原をたゆたう木の葉を見つめるように鑑賞し、風の音に耳を傾けるように無言のメッセージを感じ取る。叙情的な静寂の世界で、ぽつりぽつりとある詩的な台詞がいちいち心地良い。バーで2人が見つめ合う場面が印象的で、長回しの視線が目に焼き付いた。

河を挟んで行う結婚式が圧倒的で、思わず息をのむ。国境を挟んで分断されたギリシャとアルバニアは、近くて遠いこちら側とあちら側。ロングショットで見つめ続けるその光景がなんとも切ない。

語らず伝える無言の愛、渡らず結ぶ夫婦の契り、登って繋ぐ国と国。情感あふれる数々の場面が素晴らしかった。
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