odyss

ずっとあなたを愛してるのodyssのレビュー・感想・評価

ずっとあなたを愛してる(2008年製作の映画)
4.0
【K・S・トーマスの代表作になりそう】

(以下は、13年前、この映画がロードショウ上映されたときに某映画サイトに投稿したレビューです。某サイトは現在は消滅していますので、今はここでしか読めません。時間の経過を考慮の上でお読み下さい。)

本作の監督フィリップ・クローデルは作家でもあるそうで、もしかしてポール・クローデルやカミーユ・クローデルの縁者なのかなと思いましたが、そうではないようですね。

この映画、色々見どころがあるのですが、やはりいちばん注目すべきはヒロインを演じるクリスティン・スコット・トーマスでしょう。彼女の出演作はこれまでいくつか見てきましたが、キレイな人ではあるけれど色気がない。だから数年前の『ルパン』ではミスキャストじゃないかと思いました。だけど、今回は当たり役ですね。その意味で、この作品は彼女の代表作になりそうな気がします。というのは、ここでのヒロインは一方で自分の罪をめぐって心理的な葛藤に苦しむけれども、そもそもの職業が医師で、つまり知的な女性であるという設定ですから、彼女の持っている雰囲気にぴったりなのです。

刑務所から出てきたヒロインが社会に復帰していく過程と、それを受け入れる人々のさまざまな対応が、丁寧に描かれています。空気が読めない男もいれば、善意の男もいる。だけど、総じて善意が悪意や偏見を上回るように筋立てができています。ヒロインを受け入れる妹の家族も、特に最初は夫が懸念を表明していますけど、最終的にはヒロインを信頼するようになる。見方によっては展開が甘いと言えるかも知れませんが、観客に希望を与えてくれる映画として、むしろ肯定的に評価すべきだと思いました。

周辺の人物では、口がきけないおじいさんと、オリノコ河に憧れている警部が面白い。おじいさんの設定は、有名な『モンテ・クリスト伯』や、フランス映画『潜水服は蝶の夢を見る』(私は好きではありませんが)を想起させます。ヒロインに誘いをかける男たち(ミシェル以外でも)も、フランス的。フランスでは男はとにかく女に誘いをかけることが義務だそうですから、ヒロインにとってはそういう風土も救いになったのかな、などと考えてしまいました。

フランスの旧植民地の子供たちが養子となって育てられているところも、現代フランスの一面をあらわしていて興味深い。まあ、妹一家はインテリですから人種的偏見はないわけで、これも綺麗事と受け取れなくはないけれど、この映画は現実のポジティブな表現をめざしているのでしょうから、素直に受け取っておくべきでしょう。

この映画の唯一の疑問点は、裁判(映画では描かれず、言及されるだけですが)でしょう。もしもヒロインがああいう事情のもとで殺人を犯したとするなら、もう少し軽い刑になりそうな気がします。ヒロイン自身が弁明をしなくても、弁護士が彼女の代わりに弁明したはずです。その点だけがちょっとひっかかりました。
odyss

odyss