櫻イミト

アディクションの櫻イミトのレビュー・感想・評価

アディクション(1994年製作の映画)
3.5
「刑事とドラッグとキリスト」(1992)のフェラーラ監督が、吸血鬼を素材に”神の不在”を考察するモノクロ・アート映画。原題は「The Addiction(依存)」。

ニューヨーク大学で哲学を専攻する院生キャサリン(リリ・テイラー)は、ベトナム戦争の犯罪責任についてのフィルム講義を受け、上層部が裁かれなかったことへの疑問を友人に訴える。その帰り道、突然通りすがりの女に首を噛まれ吸血鬼と化してしまう。夜な夜な人を襲うようになった彼女はある晩、謎の男(クリストファー・ウォーケン)に出会う。問答を通して自分の中のエゴを自覚した彼女は、新たな価値観で博士論文を書きはじめるが。。。

映像はスタイリッシュなモノクロの吸血鬼ものとして魅力がある。しかし明らかに論理先行型のシナリオで頭でっかちに感じてしまった。主人公が哲学科設定なのでニーチェやサルトルなど実存主義の文言が飛び交い衒学的なムードを漂わせている。

いつものフェラーラ監督作から読み解けば、本作での血=ドラッグであり吸血鬼=薬物依存者の例えとなる。さらに薬物依存=神への依存と掛け合わせるパターンが見受けられるので、本作を大雑把にまとめれば、内なる悪を自覚し神への依存から自立する物語、すなわちニーチェ的な実存主義に則った作品と言える。

一方、本作のフォーマットは”無垢な女性が被害者となり、より強大な加害者に変貌する”というもの。これはフェラーラ監督の初期作「天使の復讐」(1981)と同じで、本作は焼き直しと捉えられる。その間13年の監督の蓄積が込められているので比喩暗喩も大量だと思われる。しっかり解釈するにはまだまだ考察が必要だ。
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