針

祭りの準備の針のレビュー・感想・評価

祭りの準備(1975年製作の映画)
4.1
小骨トモさんという漫画家の方が好きな映画だというのを読んで、なんの気なしに観てみたのですがけっこうすさまじい作品でした。

高知の田舎で信用金庫につとめる若い男を主人公にした青春モノ。舞台がけっこう閉塞的なド田舎(失礼)に設定されてるところがミソで、主人公のまわりではあらゆる男女の乱れに乱れた性的関係がひっきりなしに展開されていきます。このエピソードが見苦しいほどにいちいち凄い。その中で主人公はシナリオライターを夢見つつも、おのれの性欲に悩まされながら青春を身悶えして過ごす……。
性的な関係といっても隠微に秘された感じじゃなくて、村全体が男も女も人間そんなもんでしょうっつう認識で一致しており、恥ずかしいぐらい開けっぴろげ。それがむしろ余計にやっかいで、こういう環境で生活せねばならない主人公と母親の気持ちを思うとけっこう同情してしまう。しかしその母親も、親としての愛情は深いけどなかなか自分の気持ちを曲げないところもあって……。

いわゆる都会の群像劇とは違う、田舎でひとり悶々とせざるを得ない暗い青春の記録なんですけど、すごく見応えがありました。力作。
夢も希望もたいしてないけど、とにかく今いるこの場所から何とか逃れ出たいという気持ちを前面に押し出した、い~い青春映画だと思います。
ラストも好み。自分は原田芳雄がだんだん好きになってきました。

ちなみに村にも一応都会の「進歩的」なものはやって来るんだけど、それは社会主義の信奉者による“うたごえ運動”という形を取っていて、主人公は全然興味が持てず、むしろ恋人が入れ込んじゃったりします。このへんの何とも歯がゆい感じもよかったですねー。
針