ベイビー

エルミタージュ幻想のベイビーのレビュー・感想・評価

エルミタージュ幻想(2002年製作の映画)
3.6
何の予備知識もなく、ただ“ワンカメワンカット”で撮られた作品だと知り本作を視聴。

個人的に“ワンカメワンカット”の作品が大好物で、緻密に計算されたカメラワークや綿密に行われたであろうリハーサルの大変さを想像しながら、たまに編集点とか、長回し故の撮影の粗を見つけたりすることで、製作者たちの作品に対する情熱や苦労に触れることができ、そこに密かな喜びを感じています。

作品の概要は、ある男の主観目線でロシアの世界遺産エルミタージュ美術館を巡る中、数々の超一級の美術品を背景に、過去と現代が入り混ざる様を幻想的に描くというもの。ロシア300年の栄華と歴史の時間旅行を広大なエルミタージュ美術館を巡りながら堪能して行く仕組みになっています。

こうして概要を見ると物凄く魅力的な作品に思えるのですが、正直言って物語の内容はあまりパッとしませんでした。

アマプラの説明欄によると、主観目線の男というのが“現代の映画監督”で、同伴するナビ役みたいな男性は“19世紀のフランスの外交官”とのこと。それで、このナビ役の外交官というのが高慢で無礼な態度ばかりとるので、とてもじゃありませんが好感は持てず、彼に対する嫌悪感のせいで90分という時間が物凄く長く感じてしまいました。

どうして物語をあの設定にしたのでしょう? あの男の高慢さとエルミタージュの優雅さが全くマッチせず、終始作品全体の品格を貶めているようにも感じました。

やっている事は凄いことだと思うんです。カメラの動線を考える為に行われた緻密なリハーサルとか、大勢のエキストラを綺麗に誘導したりとか、あの豪華な衣装をあの数だけ用意したりとか、物凄く作品に込めた情熱の熱量が伝わって来るんです。それだけに、あの物語の進め方はとても残念だったようなうに思えるんです。

そう思いながら観ていると、最後の最後に僕好みのご褒美が用意されていました。ラストに舞踏会を終え帰宅する人々。あの川のように流れる群衆の量にはただただ圧倒されてしまいます。あの人員に対してあれだけ豪華な衣装を揃え、そしてそこにいる人々全てが、それぞれの時代の人になり切って演技をしているのです。マンパワーの力強さがまるで80年代の映画みたいで、忘れかけていた圧倒的な映画の力を感じ取ることができたのです。

そして、あの最後に魅せるラストカットの美しさよ

エルミタージュにある美術品に匹敵するほど、窓枠から見る外の幻想的な風景が美し過ぎて鳥肌が立ちました。まるでこのラストを締めくくるために後から映像を差し込んだのかと思えるくらい、この作品の幻想的な優美さを見事にまとめ上げていました。とても美しい光景です。

作品を観た後に「ああ、そう言えばこの作品、編集点見つからなかったなぁ」と気づいたので、継ぎ目を隠すため綺麗にCG処理したのかな? と思い調べたのですが、なんと今作はカットも編集もなしで90分間ぶっ通しで撮り続けたもの。しかも撮影日はたったの一日限り。一日のうち4度目撮影が行われ、3度の機材トラブルに見舞われたものの4度目でようやく成功したとのことです。

えーーーーーーっ! マジか‼︎

編集なしでやってんの?

あれだけの人員をスムーズなカメラワークで映し出す。お見事としか言いようがありません。もっと凄いのはあのラストカット。あんな見事なラストカットなんて、気象条件が整わないとなり得ない奇跡のカットだと思うんです。それを4度目の90分後にああやって奇跡を収められるなんて、この作品の力強さを思い知らされました。

エルミタージュの美術品の数々と、その品格に合わせた衣装と撮影技術。その美しさに拘り続けた意欲にはただただ脱帽。物語が良かったらもっと点数つけられたのに… 残念です。
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