デニロ

藍より青くのデニロのレビュー・感想・評価

藍より青く(1973年製作の映画)
3.5
1973年製作公開。原作山田太一。脚色森崎東 、熊谷勲。監督森崎東 。1972年のNHK連続テレビ小説(脚本/山田太一)の映画化。視聴率も高く、真紀しゃんという呼び方が耳に残っている。真木洋子がヒロインで、人気者だった。もちろんわたしは一度も観たことなどなかったんだけれど。

本作では松坂慶子がヒロイン。ラストのタイトルロールで第1回主演作品と出て、え?そうだっけ、と思ったけれど。大映の『夜の診療室』の記憶があったから、松竹での初主演だということだと思う。まだまだ固い蕾の21歳。花開いたのはいましばらく経ってからだったと思う。

本作は、松坂慶子と大和田伸也が愛し合い、松坂の父親/三國連太郎の反対を乗り越え結ばれるまでを描く。昭和19年。戦争の真っ盛り。20歳になれば兵役検査を受け徴兵されるという時代。丁度20歳の大和田伸也はぐらつきます。三國連太郎に、お前は娘をしあわせにすると言った、お前はもうすぐ戦争に行く、しあわせにできるのか。

三國連太郎も意地悪をしているわけでもない。戦争に行く若者がどうなるのかを知っている。そんな男に嫁いでしあわせになれるのか。18歳の女子がそんな先々を見通す目を持っているのか。そんなものがあるはずもない。

本作は、国民学校の校長/三國連太郎のバタバタしている姿を中心に物語を作っている。当時で言えば知識人であったのだろうし、その土地に大きな影響を持ってもいたのでしょう。幾多の相談事を持ち込まれたり、土地の儀式などへの参加も望まれていたのでしょう。徴兵され出征する男子たちに言葉を与えることもそのひとつだろうし、戦死した兵隊の家に弔問に行きお悔みを述べたりもするのだろう。遺族に対して、将来があったご子息をなくされてさぞ無念でしょう、とお悔みを述べると、いや、校長先生、先生が出征の際に倅にかけたはなむけの言葉を受けて、倅はお国のために立派に死んだ、本懐を遂げたのです。絶句するしかない。

三國連太郎と若者たちの相克を観ていると、個人の自己決定権のない世界の虚しさに眩暈がする。いや、今でも自己決定権を行使できているのか怪しく思われる。誰かが作った仕組みや、誰かの言葉や、誰とも知れぬ者たちの大きな声にこころを委ねていないだろうか。民主主義の基幹である選挙の投票行動をみていると、そのうちに鵺がまとめたような世界の中にがんじがらめになっていくんじゃないかと心配になってくる。東ヨーロッパや北アメリカやアジア州での全体主義傾向が身近に迫ってきていると思うのはわたしだけではないと思うのですが。

本作の力強い演出を観ながら、そんなことを思った。

神保町シアター 映画で辿る――山田太一と木下惠介 ――テレビドラマ草創期を支えた師弟二人 にて
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