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パリでかくれんぼのT0Tのレビュー・感想・評価

パリでかくれんぼ(1995年製作の映画)
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2024.5.16 37-48

ジャック・リヴェット特集これにて完走。この作品は、他の作品のように劇中劇の構造、演劇/日常の構造をとらずパリという街で展開されるミュージカルといった感じだが、この映画に貫かれるのは、裏も表も、つまり「劇」の外(日常)だろうが内(演劇)だろうが、ともに真実である、ということだ。


この映画でおもしろいのは、役者の動き、特に2人の人物の位置移動である。彼、彼女たちは、近づいたり離れたり、追いかけたり逃げたりする。カメラを同様に追いかけ合う役者たちを回り込んだり離れたりしながら、彼、彼女たちの動きを映す。ショットは切り返さない。捉えるべきは彼・彼女たちの間とその間の距離を近づけたり遠ざけたりしあいながら連動するお互いの身体の動きだ。

ルイーズとボディガードの2人の位置関係の変化は、上記のことが顕著に見られる。初めは、ボディガードがルイーズの後ろをつけ、彼女の動きを監視する。しかし基本間抜けなので、後ろから強盗に襲われた時、前を歩くルイーズに助けてもらう。もうこの時点で距離間は狂い始める。
そして、彼女にボディガードであることを突き止められたとき、いよいよ後ろから追いかけてた彼は彼女を追い越し逃げようとする。ずんずん離れていく彼の前に行き、動きを止める。そうすることで彼が本当の気持ちを言えるまで待つ。そのようにしてルイーズは、ボディガードの彼を誘導する。彼女は、彼に背中と正面を交互に見せ、クルクルと回る。彼女は、彼が目にする彼女の多面的な人間像が、いずれも真実であることを告げる。彼も彼で、自身の身分を偽っていたことを告白し、身の潔白を示すように彼女の前でクルクルと回る。

元窃盗の配達員ニノンによって、人と人が出会い、お互いの秘密は明かされ、出来事は進展し状況は変転していく。原題の直訳は、「上、下、壊れやすい」で、配達物に貼られる注意文句であり、その原題通りこの映画はニノンの「配達」を中心に展開する。

ニノンも、ルイーズも、あの司書も全員良かった。陽が沈まないパリ、昼のパリが良い。
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