けんたろう

有楽町で逢いましょうのけんたろうのレビュー・感想・評価

有楽町で逢いましょう(1958年製作の映画)
-
何んだか無性に待ち合はせがしたくなるおはなし。


京さんが兎に角似合うていらつしやる。保護者として弟の身を案ずるも、自分の恋ひには甚だ無頓着で、何時もツンケンしたる不器用な姉さん。瀟酒で大人びたるにも拘らず、照れたり怒つたりする様は何処となく可愛らしい、此の大人のうぶ。嗚呼もう、堪らぬの一言に尽きる。
無論、彼女だけではない。京さんの御相手を務めし菅原謙次さんも亦た、妹を想ふ、理論的でぶつきら棒な兄さんの役に大へん似合うてゐる。京さんの弟役の川口浩は云はずもがな、其の川口浩と恋ひを育む野添ひとみさんに至つては、京さん目当てで観に来た私しも虜に成つちまふほど可愛らしく、──とにかく全員ピタリピタリピツタリである!

純粋で正直に恋ひ慕ひ合ふ年少者ふたりと、恥じらひを抱へて中々素直に成れぬ年長者ふたりの対比も頗る好い。弟や妹の面倒と、日々を忙殺する仕事とが為めに、自らの恋愛には疎くなつてしまつた大の大人ふたりの、其の可笑しさと愛ほしさ!
又た、勘違ひ、擦れ違ひの可笑しさと擬かしさとが入り乱れた両家庭の外交も大へん楽しい。もう、何度も笑つちまふ。

然うして、タイトルにもせられたる劇伴が、まあ気持ちいゝの何んの。此の時代に生まれた作品の雰囲気が、おいらもう堪んねえ。
「あなたとわたしの合言葉♪ 有楽町で〜逢ひましょ〜お〜♪」
ひやあ、堪んないね! もう最高だよ此れあ!

而して、彼の「そごう」とは、若しかして今のビツクカメラなんかしら。 角川シネマの入りたる彼のビツクカメラなんかしら。あとで、ちよいと調べてみよう。然う思ひつゝ劇場を後にせんとしてゐたら、と或る御老人が私しにお声を掛けてくださつた。曰く、矢張り其の通りらしい。
いや、其れは兎も角だ! お爺さん!
「余んまり若い子って斯ういふ旧い映画観ないから、珍しく思って、気に成っちゃって」
余んまり映画館で斯う話しかけられること無いから、僕あ嬉しく成つちまひましたよお爺さん! もつとお喋りしたうございましたが、無念、其のあと僕あ吉祥寺ゆかねばなりませんでしたので。

まあ然し、いゝ映画体験だ。此れぞ……おいさ! 此れぞ映画館の醍醐味よ! 神保町シアタア、矢つ張り最高だぜ。──もちろん『有楽町で逢いましょう』もね。