デニロ

追跡者のデニロのレビュー・感想・評価

追跡者(1948年製作の映画)
3.0
1948年製作公開。脚本中山隆三。監督川島雄三。

いつの間にか司会者になってしまった息子の影響で大根役者だと勝手に思い込んでいた佐野周二。古い松竹映画で出会う彼は苦み走ったいい男ぶり。本作の佐野周二は、画像が潰れている影響もあるのだろうけれど、ドストエフスキーの作中人物の如くに黒と白のコントラストの中で蠢いている。

夜。銀行強盗。銃声。逃げる男。夜の女。遊んでいかない?銃声。足音が迫る。男は女を抱き寄せ、恋人を装う。遠ざかる足音。金を渡す男。こんなに沢山。夜霧のせいかもな。

翌日会う約束をしたふたり。湖。高原のホテル。女幾野道子は貰った金で明るい色の洋服を買い、スカートを翻している。男佐野周二も小洒落た感じで酒を飲んでいる。口笛の音。佐野周二は幾野道子に少し待っていろと指示し、口笛のもとに行く。山本礼三郎。銀行強盗の共犯者だ。山本礼三郎は若い男を連れている。見たことのない顔。誰だ。拘置所で知り合って付いて来てしまった。心配いらない。それより金を分配しよう。殿山泰司がまだ来ていない。三人揃ってから分ける約束だ。

クールにサクサクと進行していく。足に銃弾を浴びた殿山泰司が遅れてやって来て金を分配。山本礼三郎が連れてきた若い男徳大寺伸がホテルの金庫を襲おうと提案する。この男、はじめからおかしいだろうと思うような行動で物語に緊張感を加える。さて、こいつは警察のスパイだ。佐野周二にそう指摘されて山本礼三郎は恥じ入り、徳大寺伸をどうにかしてしまう策略を立てる。佐野周二を愛してしまった幾野道子は、もうこれ以上佐野周二には犯罪を犯して欲しくないとかんがえ、徳大寺伸にここから逃げるよう説得する。

こんな風な話で犯罪サスペンスとラブロマンスの融合。というかフィルム・ノワールの定義に則った作劇。1948年敗戦後3年。佐野周二の再生、善と悪の葛藤、世の中のせいにしてし過ぎることのない幾野道子の苦界、気ぜわしい山本礼三郎、足手まといの殿山泰司。でも、題名は追跡者。最後ににやけた二枚目刑事徳大寺伸が追跡者として再登場。

佐野周二と出会ってしまった苦い夜。幾野道子の横顔はとても美しかった。夜霧のせいだったのかもしれない。

ラピュタ阿佐ヶ谷 映画監督 川島雄三 -才気煥発の極み にて
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