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ブギーナイツのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ブギーナイツ(1997年製作の映画)
4.0
 1977年、ロサンゼルス郊外、サン・フェルナンド・ヴァレー。煌びやかなピンク色のネオンと湿気を孕む大通りの喧騒。The Emotionsの『Best of My Love』が流れる中、カメラはディスコ「Hot Tracks」のエントランスへと歩み寄る。オーナーのモーリス・ロドリゲス(ルイス・ガスマン)は忙しない様子で、有力者の到着を今か今かと待ち構えている。やがてディスコの前に乗り付けた一台の車。中からはジャック・ホーナー(バート・レイノルズ)と彼女の妻のアンバー・ウェイブス(ジュリアン・ムーア)が夫にエスコートされて颯爽と現れる。SOUL TRAIN風の若い男女がディスコ・ミュージックで踊る中、ジャックとアンバーはテーブルで夕食を食べ始めるのだが、ジャックの前にパンツの上から明らかにそそり立つものを見て、男は目を輝かせる。ジャックとアンバーはポルノ映画監督とポルノ女優の間柄だった。ローラー・ガールが忙しなく動き回る中、ジャックはゆっくりと裏口のキッチンへと歩いて行く。ジャックはディスコで皿洗いのバイトをしているエディ・アダムス(マーク・ウォールバーグ)に密かに話しかけるが、彼の真意が掴めないエディは「マスかくなら10ドル、見せるだけなら5ドル」と初老の男に金銭を要求する。処女作『ハードエイト』でもラスベガスで一文無しとなった天涯孤独の男シドニー・ブラウン(フィリップ・ベイカー・ホール)に初老の男ジョン・フィネガン(ジョン・C・ライリー)が救いの手を差し伸べたが、今作のジャックとエディも疑似父子としての関係性で結ばれている。

 ポルノ監督のジャック・ホーナーは自らが撮るのはSEXではなく、芸術なんだと宣う。ポルノ映画の撮影は数百万が軽く飛ぶ危険な仕事だと話しジャックをビビらせたあと、だが当たればデカいと豪語してやまない。前作『ハードエイト』のイカサマ詐欺師のように、ジャック・ホーナーも実にイカサマ臭いメッキのような男だが、部屋を飛び出し、住む処もないエディはジャックを実の父親のように慕う。豪邸に隣接した巨大なプールでパーティを楽しんだ後、檜風呂にジャックと浸かったエディは自分の名前を「パッと見た時にタイトな名前にしたいんだ」と目を輝かせながら話す。そう俺の名前はダーク・ディグラーだと言った彼のアイデアをジャックも拍手で迎え入れる。ジャックの妻でポルノ女優のアンバー・ウェイブスは自分の息子との接見を禁止されている。リトル・ビル(ウィリアム・H・メイシー)はあろうことか自分の妻に浮気され、青姦プレイを楽しんでいる。ローラーガール(ヘザー・グラハム)は頭が足りず、バック・スウォープ(ドン・チードル)は昼間はステレオ音響のセールスマンをしているが、ディスコ主流の時代にカントリーを好み客に嫌われる。スコティJr.(フィリップ・シーモア・ホフマン)は小太りで、エディに尋常ならざる笑顔を振りまく。フロイド(フィリップ・ベイカー・ホール)は当初からエディとウマが合い、専ら彼の親友として同時代を生きる。ただ一人カメラマンのカート・ロングジョン(リッキー・ジェイ)だけはまともな人物(職人)に見えるが、彼以外の面子は明らかに社会のはみ出し者たちである。

 映画は前作『ハードエイト』同様に、ジェットコースターのように急カーブを描きながら上昇した後、実にゆっくりとしたスピードでじわじわと凋落して行く。数日前取り上げた『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』では新学期まであと3日と15時間という限られた時間を設定し、1980年を実に丁寧に描写していた。今作はディスコ・ミュージックが大ブームだった1977年にスタートし、ジャック・ホーナーとアンバー・ウェイブス、エディ・アダムスの偽りの三角関係は来たるべき1980年に向けて右肩上がりで成功を収める。だが「グッバイ70年代、ハロー80年代」と題された馬鹿げたニュー・イヤー・パーティの席で1人の男がピストルで自死を試みた辺りから急速に風向きが怪しくなる。『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』ではMTVの出現が70年代と80年代とを隔てる重大な分岐点となったが、同じように今作では70年代と80年代を隔てる出来事としてフィルムからVHSテープへのメディア・フォーマットの転換が挙げられる。このテクノロジーの安価な進化はレーガン政権時代に入り、急速に保守化したアメリカ社会とも呼応する。ジャック・ホーナーは疑似家族の親代わりとして父親役を嬉々として演じるが、子供たちの関係をアンバーに勧められたコカインが阻む。ここでも『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』のように当時の産業ロックの流れに否定的な描写が見られる。他に何の取り柄もないエディは再びジャックの元を訪れ、「僕が悪かった、赦してくれ」と疑似父子の父へ問うのである。冒頭部分とクライマックスの長回しの場面、ドラッグ・ジャンキーのラハッド(アルフレッド・モリーナ)の邸宅にコカインと称しながら、重曹の粉を持ち込んだシークエンスの圧倒的な独創性は既にポール・トーマス・アンダーソンの非凡な才能を内外に轟かせた。
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