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蛇の道のnetfilmsのレビュー・感想・評価

蛇の道(1998年製作の映画)
3.9
 冒頭、ある車に乗った男達2人が、何か大きなことをしでかそうとしている。宮下辰雄(香川照之)は緊張のあまり車中にうずくまり、どこか落ち着く場所に一度停車しないかと新島直巳(哀川翔)に申し出る。渋々了承した新島は宮下を車に残し、宅配便を装い、大槻(下元史朗)から巧妙に住所を聞き出す。この時点で彼らが刑事なのか警察なのか、やくざなのかチンピラなのかはまだわからない。。正面突破し部屋に強引に押し入った新島は、スタンガンで大槻を気絶させ、車の後部に詰め、意気揚々と目的地へ向かう。なぜ男たちはすぐに殺さないのか?この男はいったい何者なのか?目的地に到着した時、新島と宮下の意図も、大槻の素性も同時に明らかになる。今作でも黒沢はあまり様にならない施設内で映画を撮る。ごく普通の商店街を抜け、住宅街に入り、幾つかの路地を曲がったところに今回の凄惨な現場が待ち構える。それは監禁場所と表現する方が正しいかもしれない。だだっ広い工場内部は防音加工され、周囲の住宅街には一切の音が漏れない。どんなに大声を出そうが、銃撃に怯えようが、その大きな音は外の世界と隔絶されている。

 今作は当初、『復讐』シリーズのパート3として制作される予定だった。しかしながら制作会社であるケイエスエスが企画から降り、出資元が『CURE』の制作・配給をした大映に移る。それによりタイトル変更を余儀なくされた黒沢は、哀川翔のキャラクターである安城を、新島の名前に書き改めている。先の2本では物語の設定も一家惨殺、嫁殺しの復讐だったが、『蛇の道』と『蜘蛛の瞳』では娘殺しへの復讐に変わっている。小学生の娘を誘拐され、性的な暴行をされた上、殺された父・宮下は自らの手で犯人を突き止め、復讐を誓う。調べを進めるうち、謎の男・新島が宮下の復讐に手を貸すことになる。組織の幹部・大槻を拉致し強引に口を割らすと、組長・檜山(柳ユーレイ)の名を挙げ、事態はますます混沌としていく……。今作において工場内という限定された空間における動線の把握が、真に素晴らしい効果をもたらしている。これまでの黒沢映画では、住居の狭い空間において、そこで暮らす2人ないしは3人のバラバラな動線と行動が見て取れた。妻が奥から正面に出て来る時、きまって夫は横の構図で動いていた。フレームの中にいる登場人物があたかも同じ動きを反復することはなく、横の構図と縦の構図をバラバラに用い、いかにも反作用的な動きが一つのフレームの中で散見された。今作では工場内の鎖に繋がれた男たちと、主人公たちとの距離が無限に近く引き伸ばされたことで、登場人物たちの運動の可能性と視野が無限に拡がる印象を受ける。
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