ちろる

にごりえのちろるのレビュー・感想・評価

にごりえ(1953年製作の映画)
3.7
樋口一葉のオムニバス

【十三夜】
旦那の女遊び、モラハラに耐えきれず、息子の太郎を置いて身一つで実家に帰ったおせき。
母は嫁ぎ先に怒り家に置こうと言うが、父は辛抱をしろと言う
「あれだけ若くてやり手ならば女の1人や2人の囲いもんがいて当たり前、うまく機嫌を取るのが妻の務め。」だと真顔で言い放つ父親の無慈悲さがいかにも時代だなーと思う。
相手が悪かろうと、離縁したら子供は亭主の家のもの、世の中もまた虐げられる女に無慈悲である。
月明かりの下で悲しみ閉じ込めて乗る人力車の中で、身体の中の涙を全て乾かすことができれば良いが・・・
神のいたずらなのか、人力車を引いていたのは幼馴染の六之助。
一度は心を通わせた相手でもある。
自分の事を無碍に扱う夫に自尊心をすっかり失っていたおせきにとって、おせきと会えたことだけを有り難がる彼のような存在がどんなに嬉しい事か。

【大つごもり】
資産家に女中奉公に出たみねは養父に2円の借金を用立ててもらえないかと相談される。
孤児だった自分を大切に育ててくれた養父母の力になりたいと、おかみさんに頼み込むが上手くいかず、途方に暮れたところで預かり金20円がかけ硯にある事を知り手をつけてしまう。
いつバレるか、ハラハラドキドキ生きた心地のしない年越し。
ちょっと落語のようなオチで安心しました。

【にごりえ】
淡島千景さん演じる人気遊女のお力。
お力にはかつて源七という馴染みの客がいたが、源七は商売が行き届か没落、苦しい長屋暮らしを強いられていた。
しかし源七は諦めきれずに店周りを徘徊している。

実は源七には妻と幼い息子がいて、それもありお力は源七の惨状に胸を痛めつつ避け続けていた。
お力の視点から主に描かれていた前半だが、後半にグイッと存在感を出してくるのは杉村春子演じる源七の妻。
憎々しい感情を抑えながらも情けない夫を日々叱咤する。全く自分や息子に気持ちが向いていない悲しみや悔しさを絶え抜き、なんとか家庭として体勢を保とうとするが、一度壊れたものは後戻りできず、かろうじて脆く保っていた家族という形が、とあるきっかけで無惨に崩れていく。
あゝ報われぬ妻よ。

ラストの展開、、絶句。今で言うストーカー殺人事件のようになるのだろうか?
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