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ハイティーンやくざ(1962年製作の映画)
3.7
 早朝の居間、姉の初子(松本典子)が飯を食べている傍らで制服姿の吉野次郎(川地民夫)は慌しく学校へ出掛ける準備をしていた。靴がみつけられない彼は居間の隣に併設され、今は開店に向けて工事真っ歳中の喫茶スペースにいた母・吉野たき(初井言栄)に靴が埋もれていないか確認してもらうのだが、靴を昨夜の雨で2階のベランダに干していたことに気付く。天干しされた2対の靴が2人の不具のメタファーだとすると、冒頭のワンシーンで吉野家に起きるその後の運命をほぼ完璧に暗示されていると言っても良く、あらためて映像の語り部である鈴木清順の理路整然とした語り口の上手さに舌を巻く。街は高度経済成長の真っ只中にあり、左右に建てられた平屋の真ん中に位置するまだデコボコの道路では、自転車のすぐ傍を複数のトラックが大きな音と目に見える白い排気を吐きながらすれすれで追い抜いて行く。次郎の隣には今日も親友の中川芳夫(杉山俊夫)の顔があった。次郎は幼い頃父を亡くし、母と姉の3人家族で、高度成長期に乗じて母は「ロビン」という名の喫茶店を開店するところだった。だが街では「競友クラブ」というやくざの組織が、勢力を拡大していた。

 高度経済成長期のとある街で起こる青春群像劇は、開巻間近に唐突に訪れた芳夫の父の死が、吉野次郎と芳夫の関係を残酷に引き裂いて行く。正義感に厚い2人の青春は、街の治安を不安に陥れるヤクザに果敢に立ち向かって行くのだが、その代償として芳夫は片脚に大ケガを負ってしまう。父を失った芳夫は大学への進学を断念せねばならず、不自由になった脚を抱えながらひたすら世を恨み大人になる。一方の次郎も自慢のケンカの腕を披露し、街の用心棒として大金を稼ぐものの、突然恐喝容疑であえなく警察に連行される。彼が釈放された後の商店街の人々の手のひら返しが凄まじい。街の者たちの冷たい目に耐えられず、姉は静岡へと逃げて行くが、次郎はこの街に残ることを決意するのだ。彼の幼いながらも強い意思は暴力とは違う形で街を浄化しようと決意する。ラーメン屋や電気屋など平屋が立ち並ぶ一方でその合間に建てられた高いビルディング。心底歪なのは吉野家の住居で、何もこんな坂道に建てなくてもと思うほどいびつな急斜面に喫茶「ロビン」は面する。

 みんながみんな、等しく成長していった時代のどんぐりの背比べの中で、日陰に追いやられた者の悲痛な叫び。街の富を収奪し建てられた高いビルディングから芳夫を連れ出し、多摩川の土手で繰り広げられる高低差のあるアクションで彼らの身体はくるくると低いところへ投げ出されて行く。その瞬間、冒頭の雨に濡れた2対の運動靴のように、2人は醜い大人の世界から転げ落ちるようにスタート地点へと戻る。でもそれは決して「ゼロ」地点ではない。
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