お豆さん

セブン・ビューティーズのお豆さんのレビュー・感想・評価

セブン・ビューティーズ(1975年製作の映画)
4.0
『セブン・ビューティーズ』というタイトルから、グレース・ケリーやマリリン・モンローのような7人の美女が男たちを振り回すロマンチック・コメディーかと思っていたら、男臭いジャンカルロ・ジャンニーニの顔芸が光るすごい映画だった。メロウな音楽に合わせてヒトラーやムッソリーニをおちょくりまくる「Oh yeah」なオープニングから、”Tira a campa'(その日を生き抜け、ていう感じの意味)”という哀愁に満ちた曲がリフレインするエンディングまで、イタリアらしい独特のアイロニーに満ちていて、こうしたコメディーがアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされたのがまたすごい。

なによりも家族の名誉を重んじるナポリ出身の青年パスクアリーノ(ジャンニーニ)は、そのこだわりのせいで予定外の殺人を犯してしまい、なんとか窮地を脱する方法を模索するうちにナチスの強制収容所に入れられてしまう。その過程がまたバカらしくてすごいのだが、とにかく明日にも死ぬかもしれないという極限状態にあっても、生き抜くためにあれこれ手を尽くすパスクアリーノの運命やいかに。

ざっくりとしたストーリーだけを取り上げると、ユーモアで困難を乗り越える『ライフ・イズ・ビューティフル』的な感動を想像してしまうが、この映画のすごいところはパスクアリーノ(と、その家族)のなりふり構わぬ執念で、その執念がもたらした結果がまたとてつもなく重い。しかし、どんなことをしても生き抜くという感覚が、またなんか馬の目を抜くナポリぽくて、また戦争やホロコーストという重いトピックをさらりとコメディに仕立て上げるイタリア人のユーモア感覚には頭が下がる。

日本映画でも、ろくでもない男の転落人生なんかでありそうなストーリーではあるが、お調子者のパスクアリーノが生き抜くために変貌していく様を変幻自在に演じきったジャンニーニに魅了されること間違いなしである。この作品の監督が女性(リタ・ウェルトミューラー)というのも、またなんかすごい。
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