一人旅

セブン・ビューティーズの一人旅のレビュー・感想・評価

セブン・ビューティーズ(1975年製作の映画)
4.0
リナ・ウェルトミューラー監督作。

ナポリのモテ男・パスカリーノの波乱の半生を描いたドラマ。

イタリアの女流監督リナ・ウェルトミューラーによる人生ドラマで、ナポリのモテ男が戦前・戦中さまざまな災難に見舞われながらも必死に生き延びていくさまをコメディタッチで綴った快作。主演はルキノ・ヴィスコンティの『イノセント』で知られるジャンカルロ・ジャン二ー二。『イノセント』の恐怖と狂気に支配されたトゥリオ役とは対照的にポップな役柄だが、本作においてもまさに熱演で、人生の喜怒哀楽のすべてを曝け出した演技は圧巻。どことなく風貌がマルチェロ・マストロヤン二と被るような...。

7人の妹を従えるキザなモテ男・パスカリーノが、殺人事件や戦争の惨禍に巻き込まれながら臨機応変に生き延びていく...という“ナポリ男の生き様”を描いた逸品で、主人公の置かれた環境が精神病院やナチスの強制収容所などにコロコロ変わっていくさまがユーモラス。精神病院では地獄の電気ショック療法が待ち受け、強制収容所では巨漢の女所長との性的対決が待ち受ける。生き延びるために、女所長と肉体関係を結ぼうと奮闘するパスカリーノの姿が滑稽&哀れで、女所長のぶくぶく太った肉体を必死に支えながら懸命に腰を振る姿が笑える。失敗したら銃殺!なんて宣言されているわけだから、何が何でも女所長を性的に満足させるしかない。生き延びるためとはいえ、やってることは地獄そのもの。男のプライドなんて全部取っ払う!その覚悟にあっぱれ。

テーマは“生きることの尊さ”。劇中、パスカリーノがするすべての良い事・悪い事は、生き延びるため。死体を切断して隠すのも、兵役に志願するのも、人ん家に上がり込んで食べ物を盗むのも、女所長とセックスするのも、仲間を冷たく見捨てるのも...。生き残るためなら何をしても許されるかと言われれば決してそうではないのだが、少なくとも本作のパスカリーノは生き残るために必死。戦争という死と狂気が充満した異常事態において、個人の正義は余りにも無力。パスカリーノはそれを理解した上で、仕方なく非情な行動を取る。
一族の名誉を何よりも重んじ、自分の主義主張を貫いてきたパスカリーノから、収容所の女所長のイヌになるパスカリーノへの変化。その劇的変わり様を通じて、実は戦争の残酷な本質を眺めてもいる。
ラストカットでパスカリーノが見せる、人生を諦観したかのような表情が印象的。この世の地獄を体験し尽くしたパスカリーノにもはや敵なしだ。

ちなみに、タイトルの『セブン・ビューティーズ』とは主人公パスカリーノの7人の妹たちを指す。ビューティーズ...と言っておきながら、揃いも揃っておデブばかり(看板詐欺!)。「私、37歳になるのに...」って全然37に見えないぞ。20歳はサバ読んでる、絶対。
一人旅

一人旅