Jeffrey

バラベントのJeffreyのレビュー・感想・評価

バラベント(1962年製作の映画)
3.0
「バラベント」

冒頭、ブラジル北東部バイーヤ地方。ブラキーニュの漁師達。海と太鼓、合唱、灯台、網を引く住人、大量の魚、スーツ姿の黒人、祈祷師、因習、民間信仰、愛、生活、社会。今、1人の青年の活力を映した物語が始まる…本作はグラウベル・ローシャ監督による長編第1作に当たり、全編に響き渡る民謡、人々のバイタリティ、舞台のハイチのブードゥーに通じるカンドンブレの儀式の生々しさを前面に押し出した秀作で、第13回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭最優秀作品メダル賞を受賞した映画で、この度DVDボックスを購入して初見したが素晴らしかった。


まず、絶望的な貧困の原因であった因習を地域の政治力、そして社会的な生活を変えようとする青年の抵抗が非常に描かれていてよかった。それにやはり全編に流れてくる民謡の素晴らしさ、なんとか支配から独立を図ろうとする青年の無力ながらの行為が非常に胸を打つ。

ローシャが若干20代で撮りあげた彼の最初の映画からこんなに興味深く不均一な儀式や下層階級への関心を示していたとは恐れ入る。この作品で脚光を浴びているのは、どちらかといえばヨーロッパ人よりもアフリカ人の血が多く、漁業に従事している漁師の生活と感じる。黒人をはじめ、少数民族の文化グループの白人による搾取というほぼ普遍的な問題を引き起こしたり、政治問題以外にもブラジルの特徴であるカラフルなダンスが随所に入り込み、マクンバの儀式を垣間見ることができる貴重の映画だと思う…。


さて、物語はブラジルの北東部にはアフリカからの奴隷の最古の集積地がある。人々は祈祷師にすがり、呪いをかけ、トランスに接して、更に信仰にのめり込んでいく。アフリカからの黒人奴隷文化に漁師たちの素朴な生活が息づく海岸の村には突如白いスーツの青年が都会から帰宅する。

どうやら以前村を出た漁師仲間の1人の男性らしい。彼は漁師たちが囚われている因習、とりわけ民間信仰カンドンブレから人々を解放しようと試みる。こうした結果、徐々に村に異変が起き始める…と簡単に説明するとこんな感じで、やはり舞台がハイチだからなのか、それとも素朴な人々を見ているからなのか、このバイタリティー溢れる大地と海の中での生活を見ていると、昔に見たイタリア映画の「チコと鮫」と言う作品と、これまた同監督の「遙かなる青い海」と言う作品を彷仏させる(どちらカラー映画なのだが)。


それに都会からやってきた1人の青年がいわゆる政治的圧力が孤立していて、静かな村に都会からやってきた青年の波により、徐々に変わっていく村の現場を見ていると、日本アートシアターギルドの作品の81年の根岸吉太郎の秀作の1本である「遠雷」を見ているかのようにも感じてしまう。




本作は冒頭から非常に引き込まれる。またもや大海原の描写が映り、太鼓を叩く黒人のカットバックをしつつ、民謡がひたすら流れる中、スタッフ、キャストの名前が映される。続いてカットは浜辺に数十人の漁師たちが網を引っ張っている描写に変わる。




民族楽器と民族衣装に身を包んだ女性数人が藁で作った様な家の中で舞を踊るシーンで、白人の女性が訪れてきて、ショックを受ける表情とのカットバックが印象的。それにしても浜辺での漁師たちの褐色の肌と照りつける太陽の光に反射する神々しさったら半端ない。数年前にアカデミー賞最優秀作品賞受賞した黒人監督初めての「ムーンライト」のように、褐色の肌を持つもしくは黒色の肌を持つ人々が光に照らされる(汗ばんだ照りつける状態)の時の神々しさって本当に美しいよね。

ここでは男性の体の動きをクローズアップしたり裸体(上半身のみ)をエロティックに撮っていて、エロチシズムを感じる。網を手で作っている(作業)のシーン等すごく魅力的である。それから男女を捉えたカメラが横にゆっくりとスライドするカメラが映す海のショットがなんとも美しい。それに3人乗りの筏のような特殊な船で漕ぐ男性3人の黄昏に輝く大海原のショット(音楽付き)は本当に息を飲む美しさだ。


波に揉まれながら、住民は力合わせ数十人で漁に出る。それに今まで極力風の音などを排除していた監督が、この作品のワンシーンでは思いっきり風をなびかせる音を強調させる、と思いきや不意にまた静寂な描写が頭上ショットで捉えられる。それから妙な音楽で威張りまくってる白いスーツを着た黒人と地元の漁師の若い黒人2人が砂浜で大喧嘩するシーンは面白おかしく捉えている。



ラストの灯台のローアングルショットでフィナーレを迎えるのは余韻が残る。
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