たく

女狐のたくのレビュー・感想・評価

女狐(1950年製作の映画)
3.6
19世紀末のイギリスを舞台に、ジプシーの血を受け継ぐ女性が正反対の気質を持つ二人の男性との愛の間で揺れ動く話。マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーの名コンビによるテクニカラーの圧倒的な美しさが目に迫る。同コンビは「黒水仙」で肉欲のために信仰心が揺らぐ尼僧を描いてて、肉欲を穢らわしいものとして排除しようとするキリスト教徒の描き方に共通する要素を感じた。

イングランドの山奥に住む父と二人暮らしのヘイゼルは、害獣とされてる狐のフォクシーを保護して異様な執着を見せる。孤独なフォクシーにはおそらく母親のジプシーの血を受け継いだヘイゼル自身が投影されてて、彼女が敬虔なキリスト教社会を代表する牧師のエドワードと、野性味溢れる金持ちのレディンのどちらの世界でも生きていけないことを暗示してると思った。調べると、ジプシーは中世の時代にジプシー狩りの被害に遭ってて、それでキツネ狩りが出てくるんだね(終盤ではヘイゼル自身が猟犬に追われる)。

ヘイゼルが山への誓いを守って最初にプロポーズされたエドワードと結婚して洗礼まで受けながらも、彼女が信じるのはキリスト教ではなく母親から受け継いだジプシーの信仰書。レディンがヘイゼルへの恋慕から彼女にしつこく付きまとう中で、ヘイゼルがレディンに狐の血を感じるシーンがあり、彼女が本能的にはレディンに惹かれてることを示してた。二人の男の間を揺れ動くヘイゼルにちょっとイライラしつつも、キリスト教の頑迷なしきたりを守ろうとする教会側ときっぱり縁を切ろうとするエドワードの潔さに痺れた。前半でチラっと出てきた井戸がラストにつながり、冒頭の掛け声が戻ってくるまとめ方が運命的なものを示唆してて上手かった。
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