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ロシアン・エレジーのBONのレビュー・感想・評価

ロシアン・エレジー(1993年製作の映画)
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ソクーロフの連作ドキュメンタリー「エレジー・シリーズ」の7本目にあたり、本作は同年のロッテルダム国際映画祭正式出品、山形国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞受賞作品。

全ては死から始まり、生とループする。サンクト・ペテルスブルグ郊外、サナトリウムに入院している末期癌患者の今際のきわから、時空を飛び超えロシアの映像や写真の数々が怒涛の如く押し寄せる…。

暗闇の中で浮かび上がる孤独、閉じた瞼、喘ぎ、痙攣した呼吸。やがて看護師に看取られながら死を迎え、巨匠マキシム・ドミートリエフによる帝政ロシア末期の写真や、第一次大戦の東部戦線戦闘の映像、ロシアの自然の光景を往来する。

ソクーロフは人も音も、写真も映像も、生死でさえ、映像に内包されるすべてを平等に扱う。写真は不在・死を映し、戦闘の映像は命が消えていく様子を映す。自然、森、湖畔の静けさの中で、生と未来への希望である赤子が眠る。チャイコフスキーの音楽が静かに奏でられる。

歴史の中で生きる者、死ぬ者。ソクーロフのロシア史への精神的な旅、そして何よりも人間が記憶や周囲の自然に同化していく旅。ソクーロフの作品らしく、モンタージュによって切り取られたイメージは、ポエティックで深い谷に迷い込んだ気持ちになりたまらない…。ボヤけた漆黒がどこか懐かしい。
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