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ドリアン・グレイ/美しき肖像のRのレビュー・感想・評価

3.7
最近原作ドリアングレイの肖像を読んだので、映画バージョンも見てみました。映画の感想を書く前に、原作の感想を書いたものを、記念に載せておきましょう。↓↓↓

タイトルも作家名もよく聞くし、さらにホラー小説ということで興味深々で読んでみました。禍々しいイメージの連続に興奮! 絵に描かれることで自分の美に気づき、年をとって醜くなることのない肖像画の自分に嫉妬……するかと思いきや、自分は全く変わることなく、逆に絵が変わっていく。自分の犯す罪が、重ねられる背徳と年齢が、自分にではなく、肖像画に刻まれていく。恐ろしく変容する画を誰にも見せられない。古びたサイレント映画に描かれる悪夢を見ているかのようなデカダンな筆致に何度痺れ、難解な古語を含む文を何度読み返したか。

↑↑↑以上。追記しておくと、19世紀の小説で、英語かなり難しいので、新訳の文庫本などで読むのがよいと思われます。原文の雰囲気は損なわれているかもしれないけど。というわけでここからが映画版の感想。

普通に原作に近い映画化が施されてると思ってたので、設定が現代になってるのにまず驚いた。冒頭、きりきり軋みながら揺れる照明、「ドリアン、君は取り返しのつかないことをしてしまった!」「君のあの肖像画のせいだ!」 不穏な電子音が鳴り響き、強烈な色彩のスチールが次々に画面を占めるオープニングクレジットのあと、血で染まった両手を見つめながら階段を降り、洗面所で手を洗う金髪碧眼の男、階上に戻ると、暗い部屋に横たわる死体、いったい彼らに何が起こったのか。印象的なPOVの映像で幕を開けるストーリーが次に移るのは、トランスジェンダーの男がバーでダンスする姿を、呆れ顔で見つめる上流の男たち。そのうち一人が、オープニングの男ドリアングレイで、もうひとりが画家のバジル。バジルは、首にブルーのスカーフを巻いたドリアングレイの半裸の肖像画を情熱的に描き、実業家のヘンリーは、これはバジルの最高傑作だ、と驚きを隠せない。純粋美と男性的純潔の結合、官能的な高貴さ、永遠の若さ。シャワーを浴びるドリアングレイを、欲望の滴る視線でうっとりと眺めるヘンリーとその妹。結婚は破滅よ。男は倦怠から結婚する、女は好奇心から、共に幻滅する。そう語るふたり。絵画が完成すると、それを貰い受け、惚れ惚れと眺めているうちに自分の美貌に気づいたドリアンは、このまま老いて醜い姿になりたくない、と切に願うようになる。ドリアンにはシビルという女優の婚約者がいたが、ドリアンとの恋の成就で演技に身が入らなくなり、友人たちを劇場に連れていった際、彼らを絶望的なほど幻滅させてしまった。憤ったドリアンは婚約を解消、そのショックでシビルは自殺してしまう……そして、ある日、ふと絵画に目をやると、なんと、恐ろしいことに、肖像画が老醜化しているではないか……!!!ぎょっとして鏡を覗くと、自分は変わらず完璧な美貌を誇っている。恐れ慄くドリアンは肖像画に布を被せ、屋根裏に隠すのだが、以来、その美貌と若さでセレブリティーへと昇りつめながら、官能に身をうずめ、奔放に退廃と不徳を重ねていく。時折、肖像画に目をやると、そのたびに、描かれた絵の中の自分は老い、表情がおそろしく歪んでいく……という流れで、ここまでの流れをお読みになった方々は、ほほー! 一体ドリアンはどれほどの美男なのか、と気になり、誰が主演なのかと思うにちがいありませんが、その人の名はヘルムート バーガー。個人的にはどこが美しいのかまったく理解できない”美男子”で、すっとぼけた阿呆にしか見えない。この人が自分の愚かさに苛まれ、周囲の人間が彼の”美貌”に振り回されてる様は、人類史上稀に見る阿呆の群れにしか見えず。ほぼコメディーやん。原作小説における、哲学的と言えるほど耽美主義に貫かれたペダンチックな文体が醸し出す、暗黒に満ちた幻想のような妖しさは、映画版には皆無。何たる残念! と思いながら見てたけど、こっちはこっちでなかなか面白いもので。性的に興味深いシーンもいくつかあった。初老のおばあさんが馬小屋でバックから突かれて快感に悶えるシーンや、ボートから降りてきたイケメン黒人と男子トイレで並んで小便しながらハッテンするシーンなど、おもしろいやん、と思ってたのだが、その後、あまりのあほさに爆笑して笑いが止まらなくなったシーンが!!! ミスターグレイ! ミスターグレイ!!! のあとのミスターグレイの姿!!! あまりにも意表を突いたおかしさに、たまげてひっくり返って大爆笑!!! まさかこんな美味しいシーンが出てくるとは!!! もーこのシーンを見るためだけに皆さんにこの映画を見てほしい!!! 可笑しさのセンス高すぎ!!! サイコーでした。そのあとは、元に戻って、阿呆たちと阿呆一家の独特なセクシュアリティーが展開するんやけど、まぁでも本作の持つメッセージ性は、SNSで過剰なルッキズムに晒され、人々の自意識が人類史のピークを更新しまくってる現代人にとっては、非常に鋭い風刺映画となっていると言っても過言ではありますまい。そんな現代を生きる皆さんに、本作の至言を引用して、本感想文としたいと思います。「今は天才より美青年だ」以上です。
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