囚人13号

ドクター・ブルの囚人13号のレビュー・感想・評価

ドクター・ブル(1933年製作の映画)
4.3
フォードの理想的(とは語弊があるかもしれないが)人物像はこぞって孤立していく、しかし医療従事者と他とを決定的に隔てている感覚は無抵抗なまでの自己犠牲精神と徹底した薄幸ぶりであって、本作のブル医師のみならず『虎鮫島脱獄』『人類の戦士』を経て『荒野の女たち』に及ぶ彼/彼女らは偏見の目に晒されようと弁明の素振りすら見せず、殆ど従属的に自らの使命を果たさねばならない呪われた職業であるとさえ言える。

とはいえ『ドクター・ブル』と『荒野の女たち』の間に挟まった50本以上の劇映画で自己犠牲の主題体系は確実に変化していき、軍隊映画(戦争/騎兵隊)においては個が集団に吸収されることで自我を押し殺し、『リバティ・バランスを射った男』のジョン・ウェインに至るとその行為への見返りどころか説話性までも消え失せ、遂に到達してしまったアン・バンクロフトにはもはや美学の欠片も見られない、しかもその(従来の医療従事者は持ち得なかった)反骨精神も呪われた職業の前には対立するまでもなく…実にあっけなく敗北する。
明らかな不寛容が次第にフォードを蝕み『荒野の女たち』で彼は遂に飲み込まれてしまった、あれが遺作というのも今や当然だったのかもしれないが、物語や脚本という薄っぺらな次元ではなく一人の作家が死にゆく様を見ているようで未だ直視し難い『荒野の女たち』について自分はまだ何も語れずにいる。ただ少なくとも、本作のウィル・ロジャースには明日への希望とフォードの楽観性が見い出せた。
囚人13号

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