ゆゆか

蜘蛛女のキスのゆゆかのネタバレレビュー・内容・結末

蜘蛛女のキス(1985年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

探し求めてやっと観れたんだけど、超良かった。期待を裏切らないどころか5倍は上回ってくれた。
なんといってもウィリアム・ハートの名演技。まず顔の印象からして市井の1ゲイにちゃんと見える演じぶり。本人は根っからのヘテロらしいので、演技によってそう見えるということだ。スゴい。
ラウルジュリアも悪くないけど、何よりハートの演技によって、主な舞台である2人の独房が、いま南米のどこかに本当にある刑務所の一部屋なのではないかと思えた。

そしてラストだが…これはさらっと終わってるように見せて、色々な示唆を含んでいると思う。モリーナは結局弱い女だったということや、バレンティンのモリーナへの感情は愛情や哀れみがあっても、利用しようという企みがより勝っていたのであろう、とか。南米における男の価値観の根深さとか、同性愛者へのゴミのような扱いとか…本当に、あんなゴミのように…非道い。
こうして心から同情してしまうのも、ハートの演技が凄かったから、モリーナに入れ込んでしまったのだと思う。
もっとさくっと裏切ってもっとあっさりバーンと撃たれてバタッと倒れるのかと思ったら、あんな…あんなに迷った末の行動があんな終わり方するなんて…

この映画を象徴する一言は、「愛し合う2人が共に生きていけたら…」というモリーナの言葉だと思う。
ラストのマルタはバレンティンが作り出した幻で、その幻と短い間でも2人で生きていけるからハッピーエンドという意味だろうが…モリーナは?
彼が幸福だったのか不幸だったのかは誰にもわからない、なんて一言で片付けないでよ馬鹿!!ってバレンティンに言いたくなった。モリーナの親友になったみたいに。

ハートがアカデミーで最優秀主演男優賞とってないの不思議だったけど、同年は「アマデウス」サリエリが受賞と聞いて納得。
全員が賛成できるアカデミックな作品の候補がいる以上、最優秀に抜擢しづらいよね。ゲイだし刑務所だし。
それでも、ゲイ役がアカデミー賞にノミネートされたのは史上初めてだったらしい。それが1985年というのは遅いのか早いのか。
LGBTQAへの注目が高まった現代においても、ファッキンワード連発してるから再放送も難しいだろう。
おまけに製造に問題があったのか、販売やレンタルしてるDVDが再生不良ばっかりなうえ、現在動画配信で取り扱いなしで、色々な点で幻の映画だ。
私は図書館のビデオ視聴コーナーでやっと観賞。

蛇足だが、私はいつかアメリカやスイスに生まれなかったことを後悔する日はくるかもしれないが、南米に生まれなかったことを後悔する日は絶対に死ぬまで来ないだろうと思った。
ゆゆか

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