ネノメタル

花のワルツのネノメタルのレビュー・感想・評価

花のワルツ(2021年製作の映画)
4.5
本作を観たキッカケは驚くほどシンプルで、今時珍しくSNSを全く介さずだった。
数週間前、今回鑑賞した劇場と同じ「シアターセブン」にてふと目があったポスターのビジュアルイメージにパッと惹かれて観ようと思ったからで、いわゆる音楽界隈でたまにある「ジャケ買い」にも似た感覚だった。
 本作は「母親が女手一つで育てた一人娘をバレリーナとして大成させようという強すぎる期待や愛情がある日彼女にとって重圧へと変わり、ある事を大きなキッカケに突如バレエをやめてしまう。」という所からストーリーが進んでいくのだが、バレエだの母娘だの重圧だのキーワード見るにつけ、映画『ブラックスワン』やら漫画『テレプシコーラ』などに顕著なライバルがどうとか先生のスパルタ教育がどうたらなどの過去のバレエものエンタメ作品にありがちなヒリヒリしたドロドロ展開を思い浮かべがちだけど、本作ではその種の要素は意図的に排除されている。
これは森田亜紀監督が上映後の舞台挨拶で仰っていたように「純粋にバレエと言うものの素晴らしさであるとか、それに魅せられた者たちの心象風景などを映像として残しておきたかった」というのが最大のキッカケだからだろう。
そしてドロドロ展開のないバレエをモチーフにした映画ということで『花とアリス』が浮かびがちだけどあの作品に顕著だったファンタジー要素だとかコメディー要素もほぼ無くて、もっとスッキリと「バレエとそれに魅せられた人そのもの」に純粋にフォーカスしていてその証拠にトータルタイムは1時間にも満たない作品だったけどいわゆる「薄っぺらさ」もなくて様々な登場人物の思いや物語がギュッと凝縮されている作品だと思う。
母娘の物語でもあり、登場人物にとって「人生のとってバレエとは何か?」という命題がそこにあったり、監督含め出演者の殆どがバレエ経験者が演じてたので半ばドキュメンタリーっぽさもあったりで、故にシリアスさもあるんだけどそこに付き添うリアリティの配分が絶妙でとにかく心地良い雰囲気という印象だった。
で、ネタバレなしレビューなのでこれ以上ストーリーには触れずにおくが、それはとにかく映像の質感が温泉ではないが「常温よりちょい上」みたいな感じのあたたかい湯加減のようで凄く心地良かった。本作における映像の質感の心地よさに触れるにつけ、Clean Banditというイギリスバンドの初期の大ヒット曲『Rather Be』のMVの感じがパッと浮かんだ。
 あっちはリアリティ皆無でぶっ飛んでて(笑)ジャンルは違うがあの無機質さと暖かさとの絶妙な塩梅がシンクロする。
あと本作のタイトルのフォントが個人的にツボっててもうそういうとこからバッチリ。
まとめると、ポスターのビジュアルやフォントにパッと惹かれて観に行こうと思った【ジャケ買い】作品だった。
で、正解だったと。
 
時に評判やSNSの前情報とは度外視したところにある直感に従って作品を見るっていうのも、映画鑑賞の最大の魅力の1つだと思う。
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