平均たいらひとし

COUNT ME IN 魂のリズムの平均たいらひとしのレビュー・感想・評価

COUNT ME IN 魂のリズム(2021年製作の映画)
4.2
~見た人には必ず伝わる、ドラムが発する惹き付ける力<グルーブ>~

なかなか地方ではお客さんを呼べなさそうな作品のうえに、ドラムとその演奏者にフォーカスしたドキュメンタリーなので、ここのところ刺激されている向学心を満たすため出かけなければと義務感もあったのだけれど。ことのほか「敷居」が低くなっているうえに、入り込み易い作品でした。

叩き鳴らしたいって初期衝動からその道を志した歴々のドラムプレーヤー達が繋げた「道のり」が、示される。それは、すなわちポップス、ハード、ヘビーメタル等々冠せられるロックの変遷なのですが。数々のフッテージと共にスッと、頭に入り込んで来る。

数々のプレーヤーたちの談話を織り込みつつ、見る人の関心を保つために、途中1人の女性ドラマーが、セッション用に楽器を調達する様子も挟んで。そして、クライマックスに至って楽器を揃えた女性も含む、ベテラン、若手、男女2名ずつ計4名によるドラムセッションを目の当たりにする時には、彼らが背負って来た歴史に、その間引き継がれて来た情熱の熱さも見る側にはインプットされている訳ですから、盛り上がる事必然です。

もちろん、洋楽に馴染みがあった方が良いに決まっておりますが。あまた居るドラムプレーヤーの中から、既に鬼籍に入られてしまった方を除いて、この作品の為にカメラの前に座ってくれる新旧男女プレーヤーから談話を集めていて。その構成も、楽器を始める動機が如何にして芽生えたかって誰にも親しみやすいところから始まるのですが。優しいツカミを経て、一目置かれる技法を誰かが語ると、その語られた方の談話が出たり、亡くなっている場合は、演奏映像だったりが構成されて。各プレーヤーの影響の具合に、それが綿々と連なって出来た「ロックの歴史」が、あぶり出されるのです。

その過程で、同じ楽器の演奏者自身の口から、同じプレーヤーの演奏技法に魅せられた事を語られると、その「凄さ」について実感が湧くというか、リスペクトが自ずと沸いて来るものです。4番目のオチャラケ担当のメンバー(音楽とは関係ない、映画出演の影響大)と見做していた、ビートルズのリンゴ・スターが、口々に褒められていたし。グループ名は、何となく聴いていたザ・フーのドラマーの独特なパフォーマンス姿だとか、有名曲でしか知らないレッドツェッペリンのドラマーも多大な影響を与えていたとか、あらためてこういう形で見せられると、感心したり、発見したりと、談話の引き出し方や構成に巧妙さを感じました。

自分が聴き込んでいたポリスのメンバーである、スチュワート・コープランドさんの談話が採録されているのが、本作を見るにあたっての私の唯一の拠り所でした。特に、初期の頃は、レゲエパンク調とされていて。本人の口からは、それに関しては「苦労した」とか出なかったのですが。他の方から、あれも独特なアプローチだった主旨の話があると、「あぁ、一線で活躍するというのは、そういうオリジナリティも大事な要素なんだ」と納得する。

なにより、談話で出て来る人達皆、子供の頃フライパンやナベを叩いて、親からドラムセットを買ってもらって「世界一の幸せ者だった」って実感を胸に秘めたまま音楽に対して熱い気持ちを保ち続けてステージに上がっているのが、ダイレクトに伝わります。

何処の世界も、そうですが。特に、体力がモノを言う楽器なので、女性ドラマーが肌身で感じた「か弱いお前に何が出来る」って外圧を、自身のプレイを披露して黙らせたとか。確かスティーブン・パーキンスって金色の短髪スタイルの男性の経験談だったと記憶していましたが。「ギターのアクシデントで、音が無くてもステージを繋げられるけれど。バスドラを打ち鳴らすペダルが壊れてしまったら、観客を繋ぎ止められない」とか。一流ドラムプレーヤー達の気概と自負心に溢れた談話は、下手なミュージシャンエピソードの再現劇映画よりも、胸に響きました。

本作を見なくてはと心に課したのは、映画化から「BlueGiant」の原作漫画を読破してから、バンドの重大構成要素であるドラマーに纏わる技法とか、描写で確認したい気持ちが高まったのもありまして。残念ながら専門技術的な事は、本作では触れられて無かったのですけれど。

章仕立て的に構成された談話編集の中で、「ジャズ」にも触れるところがあって。その中で、プレーヤー達が語るには、「客席から盛り立てるロックとはまた違う、グルーブを空間に創り上げるくらい別物」らしく、アート・ブレイキーとか、聴いている楽曲の演奏映像と共に詳らかにしてくれて。細かい疑問は解消されなかったけれど、更に聴き続けたい気持ちを盛り立ててくれたのでした。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャイン沼津 シネマ8にて