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ピアノ・レッスン 4KデジタルリマスターのYouKeyのレビュー・感想・評価

4.5
 Filmarks様のご厚意により試写にて観賞。
一度や二度、特に公開時観賞したという方はその時の記憶を、今回初めて観る方は事前知識をリセットしてまっさらのまま観てほしい。これは決して家父長制云々や女性解放云々の枠では語りきれない、十年後、二十年後、あるいは自分が老いたときに観かえす作品だ。

 奇しくも1993年度カンヌ国際映画祭にて「さらば、わが愛 / 覇王別姫」(昨年4Kリバイバル上映)とともにパルムドールを獲得した本作、マイケル・ナイマンによる楽曲もあちこちで聴かれ今なお駅や空港に置かれたピアノでテーマ曲ともいうべき「楽しみを希う心」を演奏する人々があらわれるほど支持されている。

 試写会場内にはその「楽しみを希う心」がずっと流れていたが、上映前のトーク開始までに繰り返し聴いていたらなぜかゾワっとさせられた。『いい曲だなあ』と繰り返し聴いた30年前とは異なる禍々しさを感じた。果たして観始めるといくつも引っかかる点が出てくる。楽譜を読めてピアノを弾きこなせる女性が南半球のニュージーランドくんだりにまで『嫁いで』いかなければならない当時の事情(スカートの中やコルセットは檻か?)や、世捨て人ベインズ(なぜジョージでないのか?)が『読めない』ことの意味、なによりも結局はエッダも誰も彼も先住民族を圧していた入植者たちの一員であり、エイダとスチュワートの終わりを暗示する「青ひげ」に対するマオリ族の人々の反応になだめにかかろうとする態度は『この無知蒙昧な原住民どもに英国文化を教えてやろう』と言わんばかりで、二重三重につらさのレイヤーを重ねているのだろうかと訝しんでしまった。

 それでも娘フローラはほんとうに実体を伴う子どもなのか、エイダの想像、内なる声なのではないか。あのピアノに対する執着を棄て”再生”したところで彼女もまたベインズ同様に社会へ戻ったのではないか、などなど考えさせられる。小説版にはすべて織り込まれているそうなので、読んでみようと思う。
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